【伝わってない】1 ★ ページ32
★ゆづサイド
三時間くらい経っただろうか。
執務室の机に座ったまま、じっと朗報を待ち続ける俺は、暖炉の火が絶え絶えになっていることにようやく気付いて、そっと椅子から立ち上がる。
寒さも忘れるほど想いふけっていたなんて…。
まぁスケートのこともそうだけど、集中したら長いのは昔からだ。
ぽいっと薪をくべて、火種をいこしてゆく。
そしてその赤い炎をじっと見つめながら、再び色んなことを考える。
もし見つからなかったら…。もしくは自分と会いたくないと言われたら…。
さっきまではあんなに心踊らせていたのに、時間が経って冷静になると、とたんにマイナス思考になるのは俺の悪い癖だ。
「まっちーまだかな…。」
そんな感情は一旦頭から追い出そう。
しかし、なんの知らせもないまま時間だけが過ぎて行く中で、ふと廊下に人の気配がして耳をすます。
……。
まっちーが戻ったのだろうか。それともお城の関係者が通っただけかな。
何にせよ僅かな変化でさえも期待してしまう今の自分には、ここでじっとしていることなど出来るはずもない。
待ちくたびれていた手前、人物を確認しないまま、自分から執務室の扉を開けて外を確認した。
すると…。
「わっ。」
いきなり目の前に、大きな壁みたく誰かが立ち塞がる。
それがかなり至近距離だったので、危うくぶつかりそうになってしまった。
立場上、こんな時は必ず相手から謝ってくるものだが、すぐに謝罪の言葉が降ってこない。
おかしいなと思いつつ、顔を確認しようと上を向いたら…。
え?!
今度は突然、太い腕に抱きしめられて身動きがとれなくなる。
お、男か?!つか何気に無礼じゃね?これ。
振りほどこうにも強い力にねじ伏せられている体制に、とても困惑する。
人呼ばなきゃだめか…。
声をだそうとしたその時…。
「ユヅル。」
「へ…。」
頭を相手の胸にうずめていた自分の耳に、骨を伝ってあたたかい声が響く。
今結弦って言った…。
俺の事を名前で呼ぶなんて、ごく親しい身内だけなのに…。
だけどこの感じは父さんじゃない。なのに聞き覚えのある男性の声は…もしかして…。
「ユヅル、優勝おめでとう。」
「プルさん!!」
力任せに身体を揺すったら、腕が解けてお互いの姿が露になる。
そして目の前にいるのが、ずっと待ち焦がれていた、エフゲニープルシェンコその人だと知る。
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鹿(プロフ) - yuccoちゃんさん» 出産シーンはあまりリアルになり過ぎず、気を付けたのですが^^;羽生さんなら立ち合いそうじゃないですか?いつか本人も、親になってほしいです^^ (2019年6月24日 17時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - りんりさん» ありがとうございました!何度でも読んでください^^私も読みます!とっても長いので、時間のあるときにでも。いつでもお気軽にコメント書いてくださいね!妄想を受け止めてくださり、ありがとうございました! (2019年6月24日 17時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
yuccoちゃん(プロフ) - 完結おめでとうございます!とても楽しく読ませていただきましたー!やっぱりゆづは王子だよね!(´ー`*)次の作品も楽しみにしています。出産シーンのゆづが駆けつけて来た時の表現にキュンキュンしました!(*´ `) (2019年6月23日 22時) (レス) id: f1f31ef53f (このIDを非表示/違反報告)
りんり(プロフ) - 初めまして。氷の国、ずっと楽しく読ませていただいていました。完結、おめでとうございます^^私ごとながら先日、FOIにて初めて結弦王子を生で見て、もう一度この小説を最初から読みたい気持ちに駆られています。次作も楽しみに読ませていただきますね! (2019年6月23日 17時) (レス) id: 6a04cdba45 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - 心菜さん» やっぱりその時その時に羽生さんを投影させていると、楽しいです^^あれもこれもまだ書いてないエピソードもありますが、ちょっと気分転換もいいかなと、ちょっと強引に終わりましたが^^;また何か書ければいいなと思います! (2019年6月13日 17時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鹿 | 作成日時:2019年5月25日 9時