氷の国22

【会いたくて】4　☆ ページ28

一瞬ひやっとしたけど、大したことないのか、幸いけがもなさそうだ。
ご本人が笑っているのを眺めながら、私も夫であるゆづ王子のことを思い出す。

「時々ちょっとした失敗する所とか。」

早口なのに噛んだり、照れてお顔をおおったり。
何かのダンスの振り付けを踊ったりして、壁に手を打ち付けたのを見たことだってある。

「同じです…。野菜は絶対食べないし、どこでも寝るし…。」

「それは昌磨さまらしいね。ねぇ知ってる？ゆづ王子って、蜂に詳しいの。」

「え、そうなんですか？」

「子供の頃研究したそうなんだけど、蜂を健気だって言うのよ。」

いつだったか、窓の外に巣を作ったのを見て色々教えてくれたことがある。
巣を守る為だけに生きてるという表現が珍しかったので良く覚えている。

「ゆづくんらしいです…。」

「男の人って子供っぽい部分があるから、つい母性本能をくすぐられちゃう。」

「わかるかも…。」

客席で真剣に女子トークになりつつある私たち。
こんなの初めてだなと嬉しく思っていると、隣の子女に、そろそろ…と退席を促される。

「王女さま。お身体が冷えますし、もうすぐ女子の公式練習の時間です。」

「あ、そうね。ごめんなさい知子さん。」

おしゃべりでつい引き止めてしまった。

「いいえ。リラックスできてよかったです。」

では。と知子さんは立ち上がって小走りにバックヤードの方へ行ってしまった。

「さ、Aさまも。」

私も子女に差し出された手を取って、よいしょと立ち上がる。
確かに少し長話をしすぎて、身体が冷えてしまった。それに何だか突然お腹が空いたような気がする。

「ねぇ、食堂へ行かない？」

唐突に子女を誘ってみる。時計はまだ１１時頃だけど、このままではお昼まで我慢出来そうにない。

「まだお昼前ですよ？」

「早めに食べて試合に備えたいの。」

「はぁ…。」

食い意地がはってると思われないように、それっぽい理由をつけてリンクの間を出る。
そういえばスケートを見に来たつもりだったのに、ほとんど知子さんとのおしゃべりになってしまったな。

でもスケートは本番で見れるし、何より女子トークが楽しかったので、今日はとても気分が良い。

「知子さんてかわいいよね。」

「えぇ、お人形さんみたいです。」

子女とも意気投合しながら、私たちは食堂へと向かった。






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