氷の国20

【公開練習】7　☆ ページ45

「スケートもいいけど、結婚もちゃんとしてね。」

この場で言うことじゃないけど、ただなんとなく伝えておきたくなったのだ。

「私は結婚など考えていません。ずっとAさまと一緒ですよ。」

「だめだめ。ちゃんと家族を持たなきゃ。いつか私が真凜にぴったりの人を見つけてあげるから。」

「だから恋愛下手のAさまの人選は信用出来ませんって、前に言ったじゃないですか。」

「下手じゃないもん。世界一好きな人とこうして家族を育んでる。」

部屋でする会話みたくなってしまったなと反省しつつも、そっとお腹に手をあてて、幸せをかみしめる。

私はこのお花畑のような春めいた時間を、真凜にも経験して欲しいだけなのだ。

「ゆづ王子は家庭も仕事もスケートもよく頑張れますよね。」

二人してリンクの中のゆづ王子を見つめながら、感慨深くなる。
それはいつも心配していることだけど、あまり本人のすることに口出しできないので、私が面と向かって意見することはほぼない。

真凜もそんな風にゆづ王子のことを気にかけてくれてるんだなと嬉しく思っていたら…。

「でもあそこまで真面目にスケートやらなくてもよくないですか？」

久しぶりに真凜からボケた意見が出る。

「何事にも一生懸命なのはゆづ王子の長所だよ！私や国の皆に、本当に奇跡的なスケートを見せてくれてるんだよ？こんな人、世界中どこを探してもいないから。」

きっとこの先、二度と現れない尊い存在であることは誰の目から見ても明らかなのだ。

「そうですけど…。」

「私だったら何か褒賞を贈呈したいくらいよ。」

王子としての肩書きだけでなく、人間国宝的な何かを。

「あ、ビールマンスピン！」

「えっ！」

突然また真凜が何か技の名前を叫んだ。
スピンということは、回るやつだ。

「あぁやってエッジのかかとの部分を持ち上げて片足で回るスピンです。」

「わぁ…。」

「あれは柔軟性がないと出来ないんです。特に男子選手で出来る人はゆづ王子とプルシェンコくらいです。」

「すごい…。」

確かにゆづ王子の身体は男性離れしてる。
本当にしなやかで華奢で、よけいな脂肪はほとんどない。

「腰にくるんですよね、このスピン。しかもゆづ王子のスピンはこれだけに限らず、入り方も終わり方もほぼ神業です。」

誰も真似出来ません。と今度は良い意味合いで真凜が言い切った。

「美しいとしか言えないね…。」

現に観客席からも、波のように絶え間ない拍手が聞こえてくる。

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