氷の国20

【公開練習】6　☆ ページ44

「今日すごいですね、騎士団の無良さんまでいる。」

「えっ。」

無良さん？！
どこにいるのだろうと目を凝らしたら、青いシャツを着た人がジャンプを踏み切った所だった。

本当だ。しかもあれは前向きに跳んだから…。

「トリプルアクセルだ。」

私が言う前に先に真凜が教えてくれる。

そんな彼のジャンプは、ゆづ王子とは全く違っていて、力でねじ伏せるようなダイナミックな印象だ。

「これが無良さんのスケート…。」

身体だって、ラインがはっきりと分かる服装を着ると、本当にがっしりとしているのが分かる。
それに着氷音もとても大きい。こんな所もそれぞれ皆違ってて個性があって面白い。

「あ、今ゆづ王子がこっち見ましたよ。」

え、ゆづ王子？
無良さんのスケートに見とれていて気付かなかった私は、慌てて夫の姿を探す。

すると、同じく前向きに跳び上がって綺麗に着氷した後、さらにもう一つジャンプをつけた。

「３Ａ３Ｔですね。」

「え、さんえーさん…？」

「アクセルトゥって言って、けっこう難しい３回転のコンビネーションジャンプです。」

女子でも出来る子は少ないです。と、腕を組んで熱心に見ている。

「コンビネーションか…。」

「あ、無良さんもコンビネーション！」

「えっ。」

どこかなと探している間に最初のジャンプを見逃してしまって、二つ目のジャンプしか見れなかった。
とほほ…。

「無良さんも騎士団のお仕事が忙しいみたいで、引退しちゃうんじゃないかってもっぱらの噂です。」

ふと真凜の口から寂しい言葉が出て、一瞬残念な気持ちがよぎる。

「そうなの…もったいないね。」

もう一度無良さんへ視線を向けて、心に焼き付けるようにしっかりとスケートを見つめる。
引退は誰にでもいつかは訪れるものだけど、正直、現役の選手がいなくるのって寂しい。

世代交代はどの世界にもあるのは分かっている。
でも年を重ねなきゃ滑れないスケートがあるって、いつかゆづ王子が言っていた。

だから引退しても、せめて滑ることをやめないで欲しい。

「ねぇ真凜。」

「はい？」

「継続は力なりって、いい言葉だよね。」

みんなのスケートを見ながら、いつか花咲く時が来る日のために、続けてくれればいいなと思う。

「私は今、スケートが一番楽しいです。」

そんな私の気持ちを知ってか知らずか、真凜がきっぱりと言い切った。
そのあまりに潔い言い方に、思わずいらぬ心配をしてしまう。

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