氷の国20

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「すっご〜い、私初めて見た…。」

「ふれあいの儀のチケット、なかなか当たらないもんな…。」

ひそひそと会話しつつも、すでに一般開放の時間になっているので、いつリンクに入って滑ってもらってもいいのだが、遠慮してるのかなかなか入ってこない。

かわいいじゃん。
そういう謙虚なところ、俺は好きだな。

そんなことを思っているうちに、クールダウンが終わったので、いつものようにほぼ人のいない客席にお辞儀をする。
すると不意に、ぱちぱちと元気な拍手が聞こえてきた。

とりあえずリンクから出るためにフェンスの出入口まで滑って行くと、その拍手がさっきの学生グループだと分かる。

彼らを横目に練習着のまま氷に挨拶したあと、いつものようにエッジカバーをつけて。
タオルとプーのティッシュケースを持った所で、ただなんとなく、一言だけ声をかけた。

「ありがとね。」

そしてここから立ち去ろうとしたら、そのうちの一人の女の子に話しかけられてしまった。

「あの、昨日ニュースで知ったんですけど、今度側室さまに赤ちゃんが生まれるんですよね。」

おめでとうございます！と、とても嬉しそうに言われたものだから、思わず立ち止まってもう一度軽くお礼を言いつつその子を見る。

「ありがと。よく知ってるね。」

こんな若い世代でも、皇子に興味あるんだなと思っていると、すかさず隣の男の子がくいついた。

「知ってるも何も、うちの母ちゃん舞い上がってたよ。」

ん…？舞い上がってた？

「今からもう一人生めば、子供同士が同級生になってお近づきに…とかキモいことも言ってた。」

それまじキモーい！！と若者たちの笑いの混じった声が響く。

「うちはなんだかよく分からないけど、今夜は肉だ！って。」

あ、こっちの子の家はお祝いしてくれるんだ。

「どうせなら氷の国名産の牛タンにしてって言いなよ。」

何気なく突っ込んだら、王子さまと会話しちゃった…。と真顔で言われる。
いや、何そのレアキャラ的発想。

「僕も普通にしゃべるからね。」

ぐっと胸を張ってドヤ ると、またぼそっと…。

「すっごいムキムキ…。」

「へ？」

そしてふと、一人の男の子が手を伸ばして俺の胸筋に触れた。
今は黒の練習着で、身体のラインがわりとくっきり強調されているから目立ってしまったかな。

これが大人だったら、無礼だと振り払う所だけど、子供のすることにいちいち目くじらたてる必要もない。

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