氷の国19

【夢の中】2　☆ ページ2

「あれ、ゆづの首の後ろの痣ってこんな形だった？」

不意に佳菜子さまが、しぶしぶながらも羽を取り除いていた手を止める。

首の後ろといえば、確かシロとの結婚の証である紋章があったはず。
普段は襟などで隠されていてあまり見ることはないのだけど、あの時温室で見た模様ははっきりと覚えている。

「勾玉のような丸い柄だったと記憶していますが…。」

私も手を止めて佳菜子さまの隣へ近寄りつつ、ゆづ王子の背後へまわる。

そして首の後ろを確認してみると、元あった勾玉から対の羽が生えた柄に変化していた。

「こんな羽、なかったよね。」

「はい…。」

佳菜子さまと顔を見合わせながらもう一度確認してみる。
よく見ると翼が黒く塗りつぶされていて、かなり強い主張をしているようだ。

黒い翼なんてゆづ王子らしくないなって思っていると、ふと静香さんが診察しながら、怪訝に首を傾げる。

「なんだか変な脈だなぁ…。ドゥンドゥンって、まるで幾つもの命がゆづの中にあるみたい。」

「ニジンスキーじゃないの？」

佳菜子さまが冗談ぽく言うのだけど、これはむしろ当たらずとも遠からずなのでは…。

卵の中で起こったことを今知る術はないけど、ゆづ王子のことだから、コウモリのフェイさんや白狐のシロだけでなく、何らかの形で魔物のニジンスキーさんまでも取り込んだと考えても不思議じゃない。

それなら静香さんの言う、幾つもの命…ということもなんとなく理解できるし、第一卵の中からニジンスキーさんは出てこなかった。

「まぁ少し熱があるけど、外傷はなさそうだね。今日はこのまましばらく様子を見ましょう。」

静かな寝息をたてる王子さまの頭に、氷冷庫から氷枕を取り出して敷く。
これで一応の診察が終わったようだ。

「良かった〜。せっかくAに皇子ができたのに、ゆづにもしものことがあったらどうしようかと思っちゃった！」

ふと、再び羽を取る作業を再開した佳菜子さまが、後回しにしていた大事なことをさらっと口にする。

「ふーん…。え、皇子？！」

それを聞いたとたん、静香さんが佳菜子さまをガン見した。

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