【東へ】1 ★ ページ1
★ゆづサイド
ふれあいの儀を無事に終えた数日後、次の公務の準備に息つく暇もない俺は、休憩がてら久しぶりに一人で温室へ来ていた。
春めいた陽気が続く中、温室の窓は全て開け放たれていて、時おり爽やかな風が通り抜ける。
「ふぅ、ごちそうさま。」
そんな温室で、フェイが俺の血を飲んだ口許をぬぐう。
契約をしてからだいたい月に二度、こうして血を飲ませるのだけど、Aに見せるのに抵抗があるので、血をあげる時だけいつも一人で来るようにしているのだ。
「だいぶ慣れたな。」
まくった袖を元に戻しながら、血を吸われる感覚に順応してきた腕をさする。
「この調子なら、三年なんてあっという間だね。」
「そうかもなー。」
たわいもない話をしつつ、ここもすっかりフェイと刑事の住みかになったなと、俺たち三人以外誰もいない温室でのんびり背伸びをする。
椅子の背もたれにだらりと腰かけて目を閉じると、不意にシロの姿の刑事が俺のひざにぴょんと両前足を乗せてきた。
「ん、どしたの。」
普段なかなかない行動をしたので、こっちもやんわりと顔をマッサージするように撫でてやると、かぷっと手を甘噛みされる。
「ゆづ、刑事くんが人間の姿にして欲しいみたい。」
そんな刑事の行動を察したフェイ。
そっかそっか。
俺はシロをそっと地面に下ろして、優しく名前を呼んであげた。
「刑事。」
すると静かに狐の姿から人間の姿へと変化する幼なじみ。
「…久しぶりだな。」
そう言って目の前に穏やかにたたずむのは、狐族の田中刑事だ。
「ほんとだな。つか刑事から人間になりたいなんてどういう風の吹き回し?」
いつもは狐の姿の方が落ち着くからってあまり人の姿になりたがらなかったのに。
すると刑事が遠くを見るような目でぽつりと語り始めた。
「…最近、北の大地を懐かしく感じるんだ。」
「へー。」
「ここの生活も悪くないが、春のあたたかさに少し参ってる。」
珍しく弱気な発言をする刑事。
なるほど。つまり春の陽気な気候より、北国の寒さが恋しいということか。
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鹿(プロフ) - suzuranさん» 最近お話がぽんぽん進んでしまうので、ゆっくり更新したいのですが、ここで止めると怒られそうで、いつもついつい更新してしまいます^^;書きたいことがはっきりしている時はたくさん進むんですが、一区切りついてしまうと難しいですね。 (2019年1月2日 20時) (レス) id: 73ad5e2308 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - るりさん» 誰もが羽生さんの幸せを願ってる^^それはまだ結婚とかではないのかもしれないけど、いつかは結婚して欲しいなあ〜と思いながら日々書いています。主人公との再会はもう少しあと…かなあ? (2019年1月2日 20時) (レス) id: 73ad5e2308 (このIDを非表示/違反報告)
suzuran(プロフ) - あけましておめでとうございます! たくさんの更新ありがとうございます(^^) ゆっくり気長に4A待ちましょう! 予想の斜め上を行くお方ですから、今年もたくさん驚かされるんだろうなぁ。 (2019年1月2日 8時) (レス) id: 4f2407ab74 (このIDを非表示/違反報告)
るり(プロフ) - あけおめです!魔王に乗っ取られなく一安心。王子と主人公ちゃん再会できてないんですもんね。早く安心できるといいなぁ。更新早くて嬉しいです。寝る前に読むのが楽しみです(^^)/今年も羽生さんにとって幸せになる年になることを願います! (2019年1月1日 22時) (レス) id: 9a360f115b (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - みなみさん» 昨年はたくさんのコメントありがとうございました!とても励みになりました。最近オリジン脳になってて、もうアニメキャラのようになっています^^;このお話が終わったら…どうしようかな〜〜 (2019年1月1日 15時) (レス) id: 73ad5e2308 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鹿 | 作成日時:2018年12月6日 17時