【春よ、こい。】2 ☆ ページ29
「ゆづさん急ぎましょう。」
壁にかかっている衣装を手に取って手際よくカバーを外してゆく。
マイさんも心配だけど、今だけはスケートに集中していただかないと。
いよいよだ…。なんだかこっちが緊張してきた。
「うん。緊張してきたぁー！」
それはゆづ王子も同じなようで、軽くジャンプをしたり、ぶるっと頭と両手を振ったりしつつ、着ていたTシャツを力強く脱ぎ捨てる。
…これはもうスイッチが入っているのかも。
なんにせよ、初めて間近で見る緊張感漂う光景に、どうすればいいのかよく分からない私は、せめて余計なおしゃべりは控えようと無言で衣装を差し出す。
すると優しく衣装を受け取ってくれた王子さまが、一人黙々と着替え始めた。
徐々に出来上がっていく春の妖精に、私のテンションも上がってゆく。
そして数分後。完全に、春よこい。の衣装に身を包んだゆづ王子が完成した。
今度こそ完全に試合モードになったようなので、私はティッシュケースなどを一通り手に持って、いつでも出れるように準備する。
「…行こう。」
そして最後に、スケート靴を履き終えた王子さまが真剣な眼差しで立ち上がる。
そのまま後をついて行くつもりで、一歩下がって通り道をあけたら、不意にゆづ王子の手がぬっと私へと伸びてきた。
「……？」
「ちょっとだけ…。」
そう言って私を包み込むように抱きしめて、指で髪をすきながら、優しく撫でてくれた。
「ゆづさん…。」
「一番近くで見てて。」
降ってくるその声の振動が気持ちよくて、思わず目を閉じる。
幸せだ…。演技直前に夫を送り出せる瞬間に立ち会えることなど試合では絶対に無理だから、今ここにいられることが素直に嬉しい。
そうしてしばらくして、そっと離れてから夫に告げる。
「…参りましょうか。」
「チーム羽生feat.カオリ・サカモトの初演。お願いします。」
ぺこっと可愛く言われたら、いつも通り、私だけの王子さまだ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 116人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鹿(プロフ) - みなみさん» 日本にいるだけで幸せです＾＾でもトロントへ帰った方がいい気もしますよね〜。もうすぐ誕生日ですが、こんなにも他人の誕生日を祝いたいと思ったのは初めてです(笑)きっと今頃ゲームとかしてるんでしょうね。羽生さんもおたく活動すればいい！ (2018年11月30日 17時) (
レス) id: 73ad5e2308 (このIDを非表示/違反報告)
みなみ - トロントでゆっくりリハビリとトレーニング、それから大学の勉強もしたらいいと思います。そろそろ卒業できるかしら？今回のお話、幸せいっぱいでほっこりしました。 (2018年11月29日 23時) (レス) id: 42f93678ff (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - るりさん» トロントのがゆっくりできそうですけどね＾＾なんか無理して全日本出そうな気もしますし、もういいじゃない。来季もプログラム持ち越したら！くらいの勢いでいいんですけどね〜。本人ももっとデレて！！ (2018年11月23日 23時) (レス) id: 73ad5e2308 (このIDを非表示/違反報告)
るり(プロフ) - 治療にどのくらいかかるか分かりませんが、しばし日本でゆっくり休んでもらいたいです！ワールド照準でいいなぁ。全日本はなんか怖いです(ﾟωﾟ) ゆづ王子と王女は春満開ですね！デレな王子もいいですね。 (2018年11月22日 22時) (レス) id: b065025f51 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - 心菜さん» もしそうなら嬉しいです＾＾まだまだ表現がたらなくてうまく書けませんが、少しでも伝わったのなら嬉しいです。最近、ロシアと羽生さんの関係がだんだん見えてきました。もう少し、見せてほしいです＾＾ (2018年11月19日 16時) (レス) id: 73ad5e2308 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：鹿
| 作成日時：2018年11月2日 18時
