氷の国16

【欲しいもの】1　☆ ページ10

☆主人公サイド

朝目を覚ますと、すでにゆづ王子の姿はなく、テーブルに一枚メモが残されていた。

“リンクの間に行ってきます”

そのかわいい文字で綴られた一文に、なんとなく心がなごむ。

そう言えば明日は佳菜子さまのスケート教室で、雪解けまつり最終日は王子さまのふれあいの儀があるんだった。

きっとその練習なんだなと思いつつ、いつものように寝室の窓のカーテンを開ける。

「おはよう、コウノトリさん。」

すでに日課になっているコウノトリの観察。
今日もかわりばんこで仲良く卵を温めているようだ。

「早く生まれないかな〜。」

時々ちらっと見える白い卵はどうやら二個あって、そのどちらともが無事に生まれてくることを願わずにはいられない。

私はしばらくコウノトリを眺めた後、別室で着替えながら今日の予定を頭の中で確認する。
ジョニーさんとの衣装作りは１０時からなので、ゆっくり朝食を頂いてもまだかなり時間がある。

「ゆづ王子はリンクへ行ってしまわれたし…。」

どうしようかなと一人思案していると、ふと王子さまがふれあいの儀でどんなプログラムを滑るのかが気になった。

それにスケート教室への乱入は…？
佳菜子さまからは止められているだろうけど、スケート大好きなゆづ王子のことだ。もしかしたら何か企んでいるのかも。

「…行ってみようかな。」

たとえ少しの時間でも、見学ぐらいいいよね。

そうと決まれば早速準備だ。
私はクローゼットから上着を一枚取り出した。





さっと朝食を済ませて夫のいるリンクへ向かう。
手には最近いただいた白い上着。

目的地へ近付くにつれて人の出入りが多くなってきたのは、皆明日の準備に追われているからだろう。

そうだ。私にとって初めての雪解けまつりだし、せっかくだから少し全体を見つつ、自分にも出来ることがないか探してみよう。

佳菜子さまもゆづ王子も、国のために頑張っているのだから私だって…。
そんな前向きな気持ちをもって、リンクへの扉を開ける。

軽く全体を見渡して上着をはおると、まず耳からいつもと違う音が入ってきた。

「あ、ピアノだ…。」

しかもステージに本物の楽器が置いてある！
私はよく見える位置に移動して、身を乗り出すように少し高い位置からリンクを見下ろした。

すると当然演奏している人が見えるのだが…。

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