氷の国15

【スケート】1　★ ページ8

★ゆづサイド

結婚当初からちょっと思っていたこと。

せっかく夫の自分がスケーターなのに、妻があまり練習を見に来てくれないことを寂しく思っていた。

Aはスケートが好きなはずなのに、いまいち俺の領域に入ってこない。
それどころか、プライベートでもスケートの話をほとんどしない。

本当はずっと待っていたのだ。
スケートを教えて。と言うかわいい一言を。
一緒に滑ったら楽しいんじゃないかなって想像しながら。

そんな俺の提案でAをスケートに誘ってみたものの、なんの準備もしていないので一度部屋に戻ってそれなりの格好をさせた。

恥ずかしがるのをなんとか言い聞かせて、やっとリンクにたどり着いたのだが…。

「ゆ、ゆづさん…。私、変じゃないですか。」

さっきから自分の服装をやたら気にしているA。

「大丈夫だって。女子でも普通にズボンはくから。」

スカートしか持っていないAに俺の練習着を着せたのだが、元々伸び縮みする素材だし、サイズは問題ない。

「だってこんなにぴったりした服…。」

どうやら身体のラインがはっきり見えるのが苦手らしい。

「じゃあ上着あるから。これ着て。」

リンクサイドで持ってきた黒いのを手渡すと、早速羽織る。
でも、こうして改まって見るとAも選手みたいに見えるから面白い。

「でも、スケートなんて自信ないです。」

「大丈夫。転けそうになったら俺がちゃんと側で支えるから。」

絶対に怪我をさせたりしないぞと心に誓いながら、半ば強引に手を引いてリンクの手前まで連れていくと…。

「まっ、待って下さい！心の準備が！」

氷に乗る寸前にへっぴり腰で止められる。

「準備することなんて何も無いの。ほら、おいで。」

俺は一度Aの手を離して、まずいつものように氷に触れて一足先に入る。
そしてブレードを慣らしながらくるっとターンしてフェンスの側まで戻って両手を広げるのだけど…。

「……。」

一向に来る気配がない。

困った顔でじっと氷を見つめているAに、怖くないことを教えてあげようと、もう一度軽く滑って好奇心を煽る。

そして足で小さな円を描いてから、スッと手を出してみた。

「王女さま、僕を信じてこの手を取ってくれませんか？」

片足のトゥをちょんと後ろについて、試合後にお辞儀をするように。
まるで王子さまになった気分で…って本物の王子だけど俺。

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