氷の国15

【姉と弟】7　★ ページ49

「だめ。つか夫づらするなって言うならあれだ、兄妹として妹の行く末を案じて言ってるだけだからこれ。」

そうだ。佳菜はずっと一緒にスケートしてきた幼馴染…いわば妹みたいな存在なんだ。
だからこんなにも心を乱される。

ちょっと自分の中でこの微妙な関係を消化出来たかなと思っていたら…。

「はぁ？こっちの方が１ヶ月早く生まれてるんだから佳菜がお姉さんだし。」

ゆづは弟！と指をびしっと差されて、俺は猛烈に悔しい気持ちになる。
ぐぬぬ…確かにそうだけど！

「ここは佳菜子をお姉さんだと思って、ゆづが大目に見てあげて？そうそう、ジプシーダンスはダイエット的な一面もあるんだよ。」

ジョニーが少しでもジプシーダンスのイメージを変えようとしているのか、軽い言い回しで説明するのだけど、それでも俺の中でのジプシーダンスは変わらない。

「佳菜がデブのおばさんになってもいいのかって話だよ。」

「それ違うだろ。」

なんとなく話がそれかけた中で、不意に佳菜が場内に向かって歩きだした。

「あーあ、せっかくの楽しい気分が台無しになっちゃった。だから見に来て欲しくなかったのに。」

「……。」

知ってるわ。
でも俺ももう言いたいことは言ったし、これ以上は佳菜のこれからの態度で示して貰おうと、俺もまた戦線離脱の体制になる。

不完全燃焼だけど、今日のところはこれくらいにしておこう。

「ユヅル。佳菜子は今日、初めてお客さんの前で踊って、色んな手応えや課題を見つけたんだよ。そんな前向きな気持ちも分かってあげて？」

そしてまた、いつも冷静なジョニーに諭されるように言われて、なんだかやるせなくなる。

ふと、そう言えばAも俺や佳菜のように、すぐ感情をぶつけ合ったりしないなと思う。

「佳菜は正室だから、ちゃんとして欲しいだけだよ…。」

王妃になる身だからこそ、自覚して欲しいのだ。

「今日はもう遅いし、続きはまたにして休みましょう。」

ジョニーが優しく俺の背中を押して馬車口を後にする。
佳菜はもう先に部屋へ帰ったようだ。

「俺、間違ってない。」

いつだって自分は正しいのだと思い込みながら歩く中で、不意に口から出た自分の気持ち。

「どっちの言い分も分かるよ。」

それに否定も肯定もしないジョニーが、なんだかすごく大人に見えた。







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