氷の国15

【スケート】5　★ ページ12

「ゆづさんガンバです！」

いつの間に立ち上がってフェンスに手をついているAが、声援をくれる。

よーし、見てろ？
出来栄えに＋５がつくようなの跳んでやる！

俺は自分のタイミングで、腕も足も身体の中心へ集めるように、勢い良く前向きで跳び上がった。

空中で四回。
意識しつつ回った後、身体をほどこうとしたら、自分が想像していたのより早く足が氷につく。

やべ…！

ぐわんと視界が回って、こりゃステップアウトだなーと思い立て直そうとした瞬間、思った以上にスピードに乗りすぎていて、その修正むなしくも転倒した。

しかも場所的にAの目の前。…ださ。

「ゆづさん！！」

あーあ。
恥ずかしくてしばらくそのまま寝転がる。
おやすみなさいを言いたくなるシチュエーションに苦笑いしつつもじっとしていると、近くでAの声がした。

あれ？ここ一応氷の上だったはずだけど…。

おかしいなと思い、首だけ声のした方に向けると、たどたどしくも、Aが氷の上を滑って(歩いて？)こちらに向かっていた。

「滑ってるじゃん…。」

まじか。
むくりと上半身を起こして、その場でAを待っていると、あとちょっと！という所で転けた。

「わぁ！」

それもみごとな尻餅で。

「あらら、大丈夫？」

うー…。と目をぎゅっとつぶって痛みをこらえているAに、声をかける。

「ゆ、ゆづさんこそ、大丈夫ですか？」

「平気だよ、慣れてるし。」

「よかったです…。」

それでも、俺を心配してくれてここまで一生懸命滑って来てくれたことが嬉しくて、自分から手を伸ばした。

「じゃ、起こして？」

「ほぇ？」

甘えん坊の小さな子供か俺！とも思ったけど、こんな機会なかなか無いから。

するとAが少し困った顔をしながらも、まず膝をついてにじり寄ってくる。
ゆっくりだけど、ちょっとずつ側まで来てくれて…。

「ありがと。」

俺の手の届く距離まで来たら、さっと手を取る。

「きゃっ。」

バランスを大きく崩さない程度に近づいて。

「心配してくれたんだ。」

「だって、転んだから…。」

お互いの座り込んだままの状態で太ももの辺りが冷たいけど…。

今、胸の中がなんとなく温かくなった。





.

【スケート】6　★→←【スケート】4　★

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す