氷の国8

【指導】5　★ ページ34

「コーチが見つかるまで王子さまにスケート教えてもらおっかな〜なんて。」

「はぁ？」

一希のふざけたセリフに目を丸くする俺。

「ちょっとでいいんです！月に一回だけでも！」

「だめ。」

ここは勿論即答だ。てかそういう冗談は好きじゃないので、くるっとターンして一希から離れる。

「そこを何とか！」

「だめったらだめ。」

どこの世界に現役選手にコーチ頼むやつがいるんだ。

「じゃあ、練習してる横でこじんまりと滑らせて貰うだけでもいいです！」

それでも俺の後ろをしつこく付きまとう一希。

「あのなぁ、俺王子だよ？滑りたかったらお城の一般開放の時間に来ればいいだろ。」

「え…。」

一般開放？と不意に一希がきょとんとして立ち止まった。

「ん？」

「え、え、それっていつですか？！」

俺の手をがしっと掴んで引き留められる。

「そんなの、月一回配布してるお城便りに載ってるだろ。」

氷の国に関する様々な情報を広く国民にお知らせするための広報誌、お城便り。
ちなみにお城のリンクは、まれに深夜の開放も行っているのだ。

「それは初耳です！」

引っ越して来たばかりで知らなかったのか、一希が頭を抱えている。

「コーチの件は俺じゃどうしようも出来ないけど、何回か通ってたら良い出会いがあるんじゃない？」

滑りにくるのは、何も選手だけじゃない。
子供から大人まで。
昔選手だった人やら、幅広い層のスケート好きが集まる。

「そっかぁ…。」

「てかさ、一希アクセルは？」

クワドもいいけど、どんな３回転半を跳ぶのかふと気になった。

「はい、得意です！」

そして頼んでもないのにアクセルジャンプの助走に入ってくれる。
すーっと後ろ向きに長い軌道を氷に描いて、前を向いてジャンプした。

カーンと良い音が鳴って、綺麗な着氷体制で降りたら、他の子達が何事かと一希を振り返る。

なかなか綺麗なアクセルだ。
でもな…。

どうですか？！と自信に満ちた表情で戻ってきた一希にひとこと言ってやる。

「跳ぶ準備長すぎでカッコ悪い。プログラムでは前後にステップ入れてよ。」

そこまで跳べるなら出来るだろうと提案してみる。

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