時間と距離を超えて17

【嘘】10　★ ページ49

「牛タン弁当？え、そんなの食べて大丈夫かよ。」

『食べたいのは私じゃないよ、お腹の赤ちゃんだよ？最近急に食欲が…(笑)』

都合良すぎだろ！
それにしんどい時期を乗り越えたら次は食欲？…太るぞ。

「分かった分かった。トマトジュースと一緒に買って帰るから。」

確か駅のお土産コーナーで売ってたはず。妊婦さんは野菜もちゃんと取らなきゃだめだからトマトジュースは欠かせない。

『お父さんはいないから３つね！』

てことは今実家か。
元気よく頼まれて、今絶対手で３を作っただろうなと思う。

「はいはい。くれぐれもお母さんによろしく伝えて。」

すっかりお世話になりっぱなしだ。

『よーく言っておくから。今日はお休みだし二人でエキシビション見るからね！』

「うん。俺一番に滑るから。」

あくまでも主役は選手だ。みんなの健闘をたたえる気持ちで演技しよう。

『じゃあ切るよ？』

「あ、待って。赤ちゃん元気にしてる？」

そうだ、今日はまだどんなだったか聞いてない。

『え？普通に動いてるよ(笑)』

「帰ったら新しい超音波写真見せて。」

確か大阪入りした後だったから、病院に付き添えなかったんだ。

『もぅ、しつこいなぁ！(笑)分かったからもう切るよ？』

だってＢ型だもん、俺。

「くれぐれも気をつけてよ？何度も言うけど。」

『ゆづこそ、牛タン弁当忘れないでね！』

ブチッと切られてしまった。

「…初めての赤ちゃんなんだからテンション上がったっていいじゃん。」

もう通信の途絶えたiPhoneに向かってつぶやく。
冷たいなーとしばらく見つめていると、Aからメッセージが届いた。

「あ、画像だ！」

慌てて開くと、そこには帰ったら見せてと頼んだ数日前の超音波写真が！

「こ、これは…。」

目を閉じて、指を咥えているように見える赤ちゃんの写真。
いつもの黒いやつじゃなくて、オレンジ色っぽくてやや立体的に見える写真だ。

「すげぇ…。」

顔までくっきりわかる。
丸まってて性別はわかんないけど、これはもはや…いや、まぎれもなく人間だ。

「かわいい〜…。」

俺とAの子供が…今こんなにも一生懸命に生きてる。

「よっしゃあぁ！」

めっちゃ気合い入ったわ。
早く会場行ってエキシビションの練習しよ。

肩をぐるぐる回して準備する。
燃えるような闘志と未来への希望と。

両方が同化して空に舞い上がりそうな気持ちになった。



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