時間と距離を超えて17

【NHK杯】16　★ ページ31

『でもわざわざ羽生さんのお名前を出してもさほど事態は変わりませんよ。』

１ヶ月も前のことですし…。と担当者に言われたけど、ここはペナルティとかを与えたい訳じゃないから構わない。
むしろこれは気持ちの問題。

「僕の意思として、僕が抗議してるってことを分かって欲しいんです。特に仕返ししたいとかはないので。」

あなた達の発言に対して、僕が怒ってます。というのを明確にしておきたいのだ。
そして、二度とこのようなことが起こらないようにしてもらいたいだけ。

『分かりました。羽生さんがそうおっしゃるなら…。』

「お手数をおかけしてすみません。」

申し訳ないけど、ここは絶対に譲れないから。
Aと、まだ生まれていない我が子を傷付けたこと。ちゃんと考えて欲しい。

『ですが、すでにこちらにも今日の騒動について問い合わせが入っているのも事実で…。最悪何らかの形で羽生さんの口から説明することになってしまうかもしれません。』

救急車に乗ったからか…。

「その時はその時で。今はとりあえずプライベート、で通します(笑)」

Aが安定期に入ったら…。会見くらいやってやるし。

『分かりました。ではくれぐれも奥様のお身体をお大事に。また何かあれば連絡ください。』

「はい。色々面倒をかけますが、よろしくお願いします。」

向こうの回線が切れたのを確認してから、こっちのiPhoneを切る。
ソファーの隣にそれをぽいっと投げて浅く腰かけたら、はーっと長いため息をついて天井を見上げる。

「子供か…。」

ずっと欲しかったけど、Aのあの状態を見てると、大丈夫なのかと心配になってしまう。
ましてや初めてで不安だらけだろうし。俺だって正直焦ってる。

今はただ、赤ちゃんの生命力を信じるしかないか。
俺とAの子供なんだから、絶対に大丈夫だ。

「よし。」

太ももをぱんと叩いて立ち上がる。

着替えを用意したら、また病院へ行かなきゃ。
だけどその前に、初詣へ行った神社にお参りして…。

安産の神様だったかどうかは覚えてないけど、俺自身が今、何かせずにはいられなかった。




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