時間と距離を超えて17

【NHK杯】15　★ ページ30

★ゆづサイド

Aの着替えを取りに帰ってきたのは実はついでで、本当の目的は、所属先と今後のことをじっくり話し合いたかったからというのもある。

１ヶ月ぶりの我が家へ戻って少し休んだ後、意を決して所属先の担当者へ電話をした。

夜遅かったけど、あの混乱した場面のままホテルのロビーで分かれてしまったので、どうしても今日中に連絡したかったのだ。

『はい。』

「あ、羽生です。」

割りと早く繋がった携帯。向こうも心配してくれていたのだろうか。
そして真っ先に聞かれるのは勿論Aのことだ。

『奥さん大丈夫でしたか？』

「はい。今は落ち着いています。ご心配をおかけしてすみません。」

そばに相手がいないのにも関わらず、軽く頭を下げてしまう。

『いえ、それより何事かとマスコミが騒いでいるんです。』

そうだろうな…。ホテルのロビーで、しかもスケート関係者がたくさん泊まっていたから、マスコミもそれなりの数がいただろう。

もしかしたら写真も撮られたかもしれない。

「実は…。」

俺は担当者にAの事を包み隠さず話した。

『え！おめでたですか？！』

おめでとうございます。と言われたけど、俺は内心穏やかでない。

「ありがとうございます。でもまだ状態が不安定で…。」

世間に発表できる状況じゃないのは事実だ。

『そうなんですか…。』

そこは察してくれたのか、それ以上は突っ込まないでくれた。

「それよりこないだ言ってましたよね、例のニュースをリークしたスケート関係者のこと。」

俺は数日前、空港で話した話題を出す。

『あぁ、アルバイトの子ですね。』

「その子の会社に抗議文書出します。」

え！と担当者が驚いている。
当然か、帰国した段階で一度水に流すって言ったもんな。

『それは構いませんが…。』

「僕、今回のことについては相当怒ってるんで。それに従業員が守秘義務を怠ったのは、社内の規律の問題でもあるでしょ。」

上が責任を取るくらいのレベルで考えてもらわなきゃいけない。
少し早口でまくしたててしまったので、引かれたかな。

『分かりました。では、こちらの所属先社名で出す…ということですね。』

「いえ、僕の名前で出してください。」

電話の向こうからざわっとした空気が伝わる。

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