時間と距離を超えて17

【NHK杯】5　☆ ページ20

☆主人公サイド

今日はNHK杯男子フリーの日。そして１ヶ月ぶりに旦那さん、つまりゆづに会える日でもある。

田中君と合流して一緒に車で会場へ向かう道中、サービスエリアでしばし休憩タイム。

「ごめん、酔った。」

「いいですよ。まだ時間あるし。」

飲み物を飲みながら外の風にあたる。
あれから体調の悪さは変わらないものの、今夜ゆづに会えるという気力だけで私は今日一日を乗り切るつもりだ。

「あとどれくらいで会場に着くのかな。」

「２０分くらいですかね。」

時計を見ながら田中君が教えてくれる。

「また並ぶのかなぁ〜…。」

正直しんどい。

「A先輩大丈夫ですか？」

顔色良くないですよ。と言われて、ここは心配させないようにシャキッとする。

「そんなことないし。あ、田中君こそ最近スケートどうなの？」

そしてさっさと話題を変える。
ずっとゆづが仕事で海外に行ってしまっていた間、二人のスケート教室はお休みだったのだ。

「個人的に行ってますよ。滑らないと身体が忘れてちゃうから。」

偉いなあ。私なんて１ヶ月以上滑っていないのに。

「ふーん。生徒の鏡だね。」

ゆづが知ったら喜ぶだろうな。
今夜ゆづに会ったらちゃんと教えてあげなきゃ。

またすぐにお仕事なんだろうし、今日くらいしかゆっくり出来ないかもしれない。

しんどいなんて言ってられないな。
ゆづにだって心配かけたくないし。

「そろそろ行きますか？」

「そうだね。」

空になった紙コップをゴミ箱に捨てて車へと向かって歩き出す。

途中、この人もNHK杯に行くのかな？という人を見かけて、だんだんスケートモードになっていく自分のテンションに嬉しくなった。





会場についたら、やっぱり入場の列に並ぶはめになる。
やっとの思いで中に入ったら、すごくリンクに近くて嬉しい反面、それはそれで寒い。

「ゆづどこかな…。」

ぐるっと見渡すと、解説席はここから右斜め向こうの一段高くなった所にあるのが分かった。

「あれ羽生さんですよ！」

田中君に指を差されるまでもなく、シルエットでわかるくらいの線の細いゆづ。

ちゃんとご飯食べてるのかな〜…。ま、私も人のこと言えないけど。

「へくしょん！」

不意に隣からくしゃみが聞こえる。
田中君でも寒いんだから、私なんてもっと寒い。

「冷えるね〜…。」

覚悟はしていたけど。
私は手袋をした手を擦り合わせて、はっと息を吐いた。



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