時間と距離を超えて17

【離ればなれ】8　☆ ページ15

「NHK杯の会場で会えるんでしょ。それまで頑張って仕事して。」

『へーい、分かったよ。あ、終わったらホテル来てな。』

「え？」

『田中に頼んでるから。久しぶりにゆっくり話しよ。』

「…うん。」

やっぱりゆづは優しい。
最後に嬉しい言葉をくれる。

それに引き換え私はかわいくないことばっかり…。こんな女の子、そのうち愛想つかされちゃうかも…。

『じゃあ今度こそ切るから。A、好きだよ。』

ほわぁ！
いきなりの不意討ちに、一気に頬が熱くなった。

「な、なな…何を急に！」

『え？夫婦なんだから普通じゃん。』

何照れてんの。と言われて、離れている間に私の中のゆづに対する気持ちが、恋愛初期のような感覚に戻っているのでは？と無駄に自覚させられてしまう。

「もう切るから！」

やばい、汗が止まらない。

『返事もくれないの？冷てぇな〜…。』

苦笑しているゆづを想像してしまって、申し訳ない気持ちになる。
だけど今自分の口から好きなんて言ってしまったら、箍がはずれてわーっと感情的になってしまいそうだから。

「…帰ってから。」

『照れ屋さんだなー、知ってたけど(笑)』

よかった…。怒ってはいない。
そして、またね。とついにゆづとの通信が切れてしまった。
また静かな空間に逆戻りしてしまう私の部屋。

…だけどゆづ、好きって言ってくれた。
その言葉だけで、私も元気になれそうな気がしてくる。

ふと天井を見つめて、居もしない人のことを思い浮かべる。
早くあのけたけた笑うくしゃっとした顔が見たいな。

「…テレビ見よ。」

部屋から出てリビングに移動する。
お父さんはフライトで海外だから、今日もお母さんと二人きりだ。

そうだ、ドラマでも見よう。

今だけ嫌なことを忘れて、楽しい時間を過ごそう。
お母さんじゃ役不足だけど、私は母と娘の時間を楽しむことにした。




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