時間と距離を超えて11

【信じる】4　★ ページ33

「ひょっとして関係者席？」

「ちらっと見えたからたぶんそうだと思う。明日もそうなんじゃない？」

まじか、それはまずいな。Aと鉢合わせとか、やましいことは何もないけど出来れば勘弁して欲しい。

「佳菜ありがとう。一度ちゃんと話するわ、由依さんと。」

「それがいいかもね。」

佳菜にスマホを返したら、もてる男はつらいね〜とからかわれる。

他人事だと思って。…まぁ向こうが何を企んでいるのかは分からないけど、なにも知らないままいるよりずっといい。

さて、どうしてくれよう。
もう鬼を通り越して阿修羅になっちゃうぞ、俺。
絶対王者を怒らせると怖いぞ〜。

今日のショーはもう終盤でフィナーレを残すのみだ。
その後少し時間とって由依さんと…。

「面倒くさい。」

でも、Aを巻き込まないようにここは俺がうまく立ち振舞わなきゃ。
俺はフィナーレの衣装に着替えるためにロッカーへ向かった。





ショーが終わってから、連盟の人に頼んで、由依さんに会場で待っていてもらうように頼んだ。
スケーターにはあまり聞かれたくない内容なので、連盟側の控え室を借りる。

それと同時に連盟の人にもさりげなく記事に嘘があるというのも伝えておく。
このまま由依さんとの仲を鵜呑みにされたら困るから。

着替えて荷物もまとめてから部屋へ行くと、幸い誰もいなくて由依さんだけがいた。

「お疲れ様です、羽生さん。」

ドアを開けただけで先に挨拶をされる。
さらに、お久しぶりですね。と言われたけど、どの口が！って思う。

「…こんにちは。」

落ち着いた低い口調で返す。
荷物を適当に置いてから、椅子には座らずに立ったまま向かい合う。
こんな場所には一秒でも長くいたくないから。

「羽生さんの方からお呼び立てだなんて、一体どうなさったんですか？」

笑顔、とまではいかないけど、機嫌のよさそうな由依さんからまず話しかけてくる。
どうなさったんですかだって？いや、お前が言うな。

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