時間と距離を超えて9

【Canada前編】7　★ ページ35

振付も終わって移動の車の中、俺は笑いが止まらない。

「見た？あの顔、ちょう面白かったんだけど(笑)」

「絶対バレてるよ？」

そうかもな。
でもはっきり言うより、半信半疑にさせておきたかった。

「言っちゃってもよかったけどまだ早いかなーって。」

何より向こうは日本人だ。どこからマスコミに流れるか分からない。

「美月さんはよかったの？久しぶりに会ったのなら時間くらい作ってあげてもよかったんじゃない？」

なれた手つきで運転しながら元強化部長が言う。

「…もうさっき話したので、これ以上話すことないですね。」

その一言を聞いてさらに爆笑してしまった。

「そんな空気みたいに扱うなよ(笑)」

かわいそ。ちょっと同情…はしないか。

「羽生君、この後一つお仕事なのでこのまま向かいます。」

「お仕事？振付だけじゃないんだ。」

「まーね。」

今夜、急遽出演することになったトロントでのアイスショー。
日本以外でのショーなんて滅多にないから俺自身楽しみにしてた。

「トロントはスケートの街だから、あちこちでショーを見ることが出来るの。羽生君の出演を発表した瞬間から、チケット即ソールドアウト！」

「ゆづの人気はカナダでもすごいんだね。」

「でもこっちのお客さんは目が肥えてるからな〜。いつもと会場の雰囲気が違って緊張しそう。近いし。」

自分がトロントのショーでどれだけ通用するのか確かめたいのも本音だ。

「楽しみだな…。」

小橋と食事するより何倍も楽しい夜にしてやるよ。

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