時間と距離を超えて9

【Canada前編】6　★ ページ34

ほぼ振付も完成して一度休憩する。
日常的な会話は問題ないから、あちこちで英語が飛び交う。

そんな中、一際目立つ日本語が聞こえた。

「Aちゃんはいつまでトロントにいるの。」

ポケットに手を入れたまま、自販機で買ったホットコーヒーを持つAのそばに立つ男、小橋だったか。
なんだ、デートにでも誘う気か？

「５日間かな。でもみっちり仕事入ってるから。」

お、先手を打って遠回しに断ってる。
いいぞ。さすがA。

「せっかくの再会を祝して食事行こうよ。」

「え、だめだよ。滞在中はスケジュールが決まってるもの。」

「少しくらい大丈夫でしょ？ホテルどこ？迎えに行く。」

しつこいやつだな。聞いてて腹立ってきた。
これ以上誘ってくるならひとこと言ってやろうかな、と思っていると…。

「私、男の人と二人で食事しないことにしてるの。彼氏が怒るし。」

うわ！言ったなぁ、A。
やば、顔がにやけるわ〜…(笑)

「え、彼氏いるんだ！でもここカナダだし、バレないよ？(笑)」

「バレるよ、絶対に(笑)」

笑いながらコーヒーを飲んでいる。
次何か言われたら俺が間に入ってやろうかと思ったら、小橋が…。

「じゃあ、せめて連絡先教えてよ。またこっち来た時に会いたい。」

「……。」

交換してなかったのか、Aもさすがに困ってる。
しゃーない、今日は気分がいいから俺が助けてやろう。

スケート靴の音をかちゃかちゃさせてそばまで行くと、二人とも俺を振り向いた。

「A、そのコーヒーちょうだい。」

返事を聞く前にさっと奪って飲んでやる。

「A？」

俺がAを呼び捨てにしたのに気づいたか。小橋が怪訝な顔をした。

「寒くない？マフラー貸そうか。」

そしてプーさんのティッシュケースのそばに置いていたマフラーを手に取って、Aに差し出す。

それを見て小橋があ！と声を上げた。

「それ、メアリーの…。」

マフラーを指差して驚いている。
さすが留学仲間、やっぱ知ってたんだ(笑)

「これ？彼女にもらったの。ちょうあったかいからちょっとだけ返してあげる(笑)」

そう言ってAの首に巻いてやる。
…気づけよ？小橋。これで分からなかったらバカだから。

「ありがとう…。」

少し照れくさそうに笑ってる。
やっぱ似合うわ、うん。

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