時間と距離を超えて8

【奮闘】★　2 ページ36

「我慢！」

「いきなり無理だし！」

「甘えんな、それくらい子供でも文句言わずにやるわ。」

「……。」

あ、言いすぎたか。
でもスケートは妥協したくない。

なにも出来ないことをやれと言っている訳じゃない。Aなら出来ると思うから言うわけで。

「心のなかで4秒数えてみな、それまで絶対に氷に足をつけないで。」

「いつもよりドSだ…。」

「文句は一人前になってから。」

「わかったよ！」

何度も繰り返してスパイラルを練習している。
A、意外と意地になるタイプなのか…。良い傾向だな。むしろ嫌いじゃない、うん。





１分という短いプログラムなのであっという間に振りが完成した。

「この最後のポーズ、最初と逆になってるの？」

よく気付いたな！

「そうそう、自分を抱き締めて下向いて終わり。」

「なるほど。はぁ、疲れた！」

頭も身体も目一杯使ったからか、いつもより息がきれている。

「じゃあ休憩する？」

今すぐ無理してやる必要もないし。

「うん。ちょっと座る。」

Aがリンクから出て行った。
俺はまだ体力が残っているので、続けて練習することにする。

The water is wide。
俺もこれで振り付けをしてもらうわけだけど、ショーのプログラムとなればどんなのになるかな…。

とりあえず4アクセルと他にも4回転入れたい…。
Aと同じ世界観を表現したいな。

愛に満ち溢れた、決して悲しい恋物語でないプログラムにするつもりだ。
その辺のニュアンスを上手く振り付けの先生に伝えられるかな…。

俺の英語力で大丈夫だろうか。
やっぱAが一緒に来てくれると助かるんだけど…。

「仕事休めないんじゃしょうがないか。」

通訳という仕事は、ある意味俺のパートナーとして頼もしいよな。
あーあ、誰か通訳頼んでついてきてもらおうかな。

「ん？まてよ…。」

通訳なら通訳として連れて行けばいいんじゃね？
それなら堂々と出来るじゃん！

不意にリンクサイドのベンチに座っているAを見ると、ごくごくと自販機で買ったジュースを飲んでいる。

足ぶらぶらさせて、子供か(笑)
やば、顔がにやける。

ふふふ。どうせなら内緒にして驚かせよう。
でもうまくいくかな。…いや、大丈夫。なんとかなる。

外周を周りながら何度もうなずく俺は、しばらく笑いをこらえるのに必死だった。

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