時間と距離を超えて7

【真っ赤な炎】4　★ ページ37

「あれが、田中か…。」

昌磨に聞かれないようにつぶやく。
Aはスケーターや連盟の関係者に頭を下げながら挨拶している。

心配かけたこと、気にしてたもんな。
またこうやってショーに来れて、本当に良かった。

動かずにじっとしていたら、向こうがこっちに近寄ってきた。
当然か。今通路ふさいでるもんな、俺。

「わ！羽生結弦？…と宇野昌磨！」

いきなり田中に呼び捨てにされる。
…なんだよ、感じ悪ぃ。

それを聞いたAが、焦って田中を注意する。
なるほど、こういうキャラか。

「美月さん、もう身体は大丈夫なんですか？」

昌磨が先に声をかける。

「あ、はい。もう普通に身体も動かせます。ご心配をかけてしまってすみませんでした。えと…羽生さんにも。」

はぁ？羽生さん？
その呼び方に、俺だけでなく昌磨も違和感を覚えたようだ。

田中がいる限り、ゆづじゃまずいのは分かるけど…。
くそ…色々めんどくさいことになりそうだ。昌磨が何か言う前に退散しよう。

「また元気な姿でショーで会えて嬉しいです。Aさん。」

こっちもいきなり他人行儀に言ったからか、昌磨にガン見される。
さん付けなんてAの両親の前でしか呼んだことねーのに、と内心思いながら笑顔で他人のふりをする。

「美月さん、隣の方は？」

色々悟ったのか、俺の言動を流した昌磨が、田中についてAに尋ねる。

「あ、今回新人を一人連れてきてるんです。何かとご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いします。」

「田中義男です！三日間よろしくお願いします！」

…声でかい。

「あ、そうなんですか。それで…(笑)」

「昌磨？ひとまず着替えよっか。じゃあ二人ともリハーサルよろしくお願いしますね。」

そして昌磨の手を引いて、再びロッカーへ向かう。
きびすを返して歩こうとすると、後ろから田中の声がした。

「A先輩、羽生結弦ってすごい顔ちっちゃいですね〜。」

…A先輩？
今下の名前で呼んだか。

そうか、そうですか。
一瞬足を止めそうになったけど、なんとかそのまま歩き出す。

俺は羽生さんで、田中はA先輩か。
ふーん。

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