時間と距離を超えて6

【プロスケーター】3　★ ページ3

「昌磨のは？」

「ポケットに入れてる。どのタイミングで返そうか迷う…。」

「じゃあ今から返しな。」

「え！もう？！」

ちょうどリンクに着いたし。
どうせその辺にいるだろ。俺は大きな声で昌磨を呼んだ。

すると客席の椅子に座ってスケート靴を履いていた昌磨が、ひょっこり立ち上がって顔を出した。

「いたいた。はい、じゃあ後はお前が直接話して。」

「ゆづが呼んだんじゃん！」

どんだけドＳなの？！と言われる。え、これ親切じゃん。せっかく呼んでやったのに、手がかかるな〜。

「あ、美月さん。今日通訳で入るんですね。」

靴を履き終わった昌磨がごとごとと近寄ってくる。
そしてAの足元を見てまた、あ。と声をあげた。

「あぁ、これ実は少し練習してきたんです。」

これとはもちろんスケートのことだ。

「ひょっとしてゆづ君に？」

「そうです。」

昌磨にガン見される。
なんだよ、おかしいか。言わないけど、ロシア語との交換条件だから、これ。

「そうなんだ〜…なるほど。」

何度もうなずく昌磨。
そんなことより早く返しちゃえよ、ネックウォーマー。
俺はひじでAをつついた。

「そ、それでこれなんですけど…。」

その合図に、ようやくポケットから出てきた黒いやつ。

「あ、僕のネックウォーマー。てことは、新しいの買ったんですね。」

Aの首に視線を向けてから、また俺を見る昌磨。
もう色々気付いたか。てか早くそのAの手も上にあるやつ引き取れよ、と目で合図しながら昌磨の様子をうかがう。

「今までありがとう…ございました。」

Aの言ったお礼の一言に、昌磨が…爆笑した。

「あはは！いえいえ、お役に立てて良かったです(笑)」

……。
Aほんとに言ったな、その別れのセリフっぽいやつ。
でもこれでやっと本人にネックウォーマーが返せた。

「もう貸さなくていいから(笑)」

「うん、分かった。ゆづ君、なんか…前より素が出てる？」

ん？
出てない！…とは言えないか、もう(笑)

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