嘘と真実7

【チョコレート】6 ページ6

会場から出て駅へ行く途中。

「駅どっち。」

「こっち！送る気ないくせに言うからだよ。」

バカじゃない？と佳菜に言われた。
うるさい。
けど、道を覚えながら歩かないと、迷子になるとか洒落にならない。
ところが…。

「駅こんな近いの？！」

最寄り駅まで徒歩五分といったところか。
これは迷いようがないな。と思いながら、階段を降りて地下鉄に向かう。

「だからいいって言ったのに…でも次の電車まで15分あるから、座ってチョコたーべよ。」

切符より先にチョコレートなんだ…。
佳菜らしいと言えば佳菜らしい。

とりあえず俺も隣に座って、Aにもらったチョコレートをポケットから出してみる。
ほんと…これどうしたんだろう。
通販？いや、まさかな。

「これゆづがCMしてたやつだよね？あの四回転キレイだったよね〜。」

言ってから、佳菜がぱくりとチョコにかじりついた。
あれか。
随分前のことだけど。

「納得いくまでやったから。」

あのバチッとはまった感覚は、今でも覚えている。
着氷の瞬間も音も、凄く気持ちよかった。

「ゆづ食べないの？」

さっきから俺の手の中で持て余してる赤い小さな箱。
Aは佳菜と一緒に食べろって言ってたけど…。

普通二つ持ってたら、一つは自分で食べないか？
まぁ佳菜が突然来たってのもあるけど、わざわざあげなくたって…。

それに俺にまで渡すってなんだよ。
後でホテルに帰ってからくれればいいのに。

「一緒に食べたら何かあるのか…。」

「あ〜美味しかった！やっぱり甘い物は元気出るなぁー。」

とっとと完食してるし…。ん？ちょっと待て。

「…佳菜今なんて言った？」

「え？美味しかったって言ったけど。」

「その後！」

「元気でるなぁー。…かな？」

「それだ。」

俺は人差し指でチョコレートを指差した。

…きっとAは、俺と二人でこれを食べようと思ってたんだ。

美味しいねって。
元気でたねって。言いたかったんだ…。

たけど俺が佳菜と外に出たから…。
だから佳菜と一緒に食べろって…。

「ゆづが食べないならちょうだい。」

「ばっか！やらねーよ！！」

奪われそうになって、ついムキになる。

「ケチ！」

チョコレートくらいで怒らないでよ。と佳菜が文句を言っている。

「チョコレートくらい？そんな安いやつじゃねーし。」

これは値段じゃない。
俺の為にAが用意してくれた、すごく価値のある物。

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