嘘と真実7

【トラブル】9 ページ47

何人かすれ違う人に道を譲られる。
別に怒ってる訳じゃないけど、一言いってやらないと気が済まない。

控え室のドアを勢いよく開けてAを探す。
iPadを眺める後ろ姿、間違えるはずもない。

「A！」

ゴトゴトと歩いてそばまで行く。
文句を言ってやろうと口を開けたら、俺に気付いたAがぱっと振り返った。

その表情はめちゃくちゃ笑顔で、俺は思わずひるんでしまう。
そして自分の顔にiPadを重ねる。

「じゃーん！最高のショータイム！！」

俺に画面を見せつけてきた。
そこには最後に滑ったプログラムの写真が表示されていた。

つい癖で見いってしまう。

「…俺と、お客さん？」

わりと引きで撮ってある俺のバックに、ぼんやりとお客さんが写っている。
誰だかわからないけど、楽しんでいる様子が手に取るようにわかる写真だった。

「一番撮りたかった写真がやっと撮れたよ！お客さんをどう構図に入れるか、いつも課題だったんだよねー。」

Aの撮った珍しい写真を見て、なんだか冷静になっていく俺。

「…これどこかに提出するの？」

「しないよ。連盟に出すのはあくまで結弦やスケーターのソロの写真だけだから。」

プライバシーの問題で。とAが教えてくれた。

「じゃあなんで撮るの？」

「んー、カメラマンとしてのこだわりかな。」

よくわからないけど、Aらしいな、と思った。

いつの間にか丸め込まれてしまったような気もするけど。
Aが喜んでるならいいか、と結局何も言えずにいる俺だった。




一日目のショーも終わって、今は会場近くのホテル。

軽い打ち上げの後、部屋に戻った俺は、ベットの上で必死に睡魔と戦っていた。

「寝ればいいのに(笑)」

「せっかくAと同じ部屋にしてもらったのにもったいないじゃん。」

オリンピック二連覇の功績か、今回から少し良い部屋にしてあげるよ、と連盟に言ってもらえて。
じゃあ二人で…と思ったのに。

「でも、今日の安藤さん面白かったなぁ〜(笑)」

作業をしながら、ふふふ。と思い出し笑いをしている。

「どこがだよ。あんなめちゃくちゃなトークコーナー、ない方が良かった。」

スケーター人生始まって以来の汚点だ。

「私も聞きたかった、結弦がいつ結婚を意識したのか(笑)」

親に紹介した時なんて嘘でしょ？と言われて、笑ってしまう。
ばれてたか。

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