嘘と真実7

【念願】2 ページ35

「まず…ドバイかな。」

「めっちゃリゾート地！」

「そこに住んでる日本人が主なクライアントで…。」

「…だから英語の勉強全然してないの？」

前から思ってたけど…。

「へへ。習うより慣れろ！」

カナダでは引きこもってたくせに。

「トロントでもうちょっと頑張った方がよかったんじゃない？」

「結弦が知らないだけで、けっこう頑張ってたよ。」

ほんとかよ…。

「で、何撮るの。」

「…馬かな。サラブレット？」

はぁ？

「たかが馬撮りにドバイ？！」

「知らないの？！競走馬だよ。有名なんだよ？速い馬は何億円も稼ぐんだから！」

金持ちの国はよくわかんないな…。

「大きな大会でもあんのかよ。」

「たぶんね。…結弦もちょっとサラブレットぽいよ？(笑)」

由緒ある血統の。とAが言う。
サーバルキャットの次はサラブレットか。

「動物に例えるのまじやめろ。」

由緒正しくても、馬は馬。

「とにかく、クライアントが馬主なんだよね。」

「なんで連盟からそんな仕事が回ってくるの。スケート全く関係ない…。」

「さぁ…？色んな人が私の写真を見てくれてるってことかな。」

「主にAの撮った俺の写真だろ？」

他の被写体あったっけ。

「クライアントが全員結弦ファンなんじゃない？！」

「だとしたらAは敵地に行くことになるな。」

「は…！ほんとだ！！」

怖い〜！と俺に泣きついてきた。
遅いわ。
もしそうならせいぜい俺の奥さんだってバレないように頑張れ。
ま、名字で無理だけど。

Aの頭をよしよしと撫でていたら、不意にスーツケースの中に無造作に置かれているファイルが目に付いた。

気になって手を伸ばして取る。
めくって中を見て見ると…。

「げ！俺の写真ばっかり！」

滑ってるのより、普段の何気ないカットがやたら多い！

「あ、それ？世界に一冊だけのプライベート写真集だよ(笑)」

これ去年の年末に見つけたやつ…。
全部プリントアウトしたんだ。

「この寝顔のも…？」

「寂しくなったら眺めるの。」

…そんなん言われたら、さすがに持って行くなとは言えない。

「こないだの桜の写真、ちょういっぱいあるんだけど…。」

「どれも捨てがたくて(笑)」

しかもプロだから全部上手く撮れていて、本当に写真集を見ている気分になる。

…まるで売り物みたいだ。
自分なのに見入ってしまう。

「あれ？最後のページがない。」

気分よく見ていたのに、肩すかしを食らったように写真集が終わってしまった。

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