嘘と真実7

【念願】1 ページ34

Aが海外へ行く前にいくつかアイスショーが決まっていて、そのための練習も兼ねてリンクを予約した。

足のケガもすっかり治って、ジャンプも概ね順調。

「何滑ろっかな…。」

まだ４月。今季のプログラムは全く未定だし、かといって過去のプログラムはたくさんあるから選ぶのが一苦労。

「Aに相談しても的外れな答えが返ってきそうだし…。」

フリーかショートか、それともエキシか。
せっかくだから一つずつ選んでもいいな。

「とりあえず全曲流してみよ。」

久しぶりに昔のプログラムでもいいかもしれない。
大まかな動きだけでもさらってみることにした。





深夜。
リンクから帰って荷物を片付けたら、真っ先にバスルームへ向かう。

Aを起こさないよう、静かにシャワーをあびて自室に移動しようとしたら…。

「あれ、Aの部屋、明かりがついてる。」

起きてるのかな。
少し開いたドアの隙間をのぞくと、Aがスーツケースを床に広げてうろうろしていた。

俺の気配に気づいてこっちを見る。

「あ、おかえりー。」

「うん。ただいま。まだ起きてたの？」

言いながら部屋に入って床に座った。

「そろそろ準備だけでもしなくちゃ。ぎりぎりだと焦るしね。」

もうAが海外へ行くまで１ヶ月を切ってる。
まだ実感はなかったけど、こうして行動されると、否が応でも意識してしまう。

俺がカナダへ行くときも、こんな気持ちだったのかな…。

「ねぇ、今度のアイスショー。Aはカメラマンとして入るの？」

今季のフィギュアの仕事はどうなってるんだろうかと、尋ねる。

「うん、行くよ。ゴールデンウイークにあるショーは断ったけど。」

「じゃあショーは今週末にある一回だけか…。」

５月に入るとばたばたしそうだしな、やっぱり。

「グランプリシリーズは結弦のアサインを知らせてもらえることになってるし。ファイナルも出るだろうから行くとして、後…全日本と世界選手権！」

それくらいかな？とAが指を折って数える。

「そんだけしか会えないのか…。」

いざ数えてみるとすげー少ないな。
しかもこれから約半年間は試合自体がない。

「行き先によっては会えるかもよ？」

Aの行き先？そういえば聞いてなかった。

「海外のどこ行か決まったの？」

「こないだ詳細が来たんだけど…えーと。」

iPhoneを取り出す。

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