嘘と真実7

【桜】4 ページ27

小さな声で、ありがとうございます。と返してお金をチャリンと入れる。
そして、そっと口に人差し指をあてて、内緒でお願いします、という意味を込めてバスを降りた。

ここで降りたのは俺達二人だけ。

「すぐそこだよ。」

バス停から真っ直ぐ道を歩く。
すると土手に突き当たった。

「ここ…ひょっとして河川敷？」

「そう。」

去年、野球チームを見に来た場所から少し上流の方だな。
土手を登りながら懐かしさに笑みがこぼれる。

Aが先に上まであがって、わぁ！と感嘆の声を上げた。
俺も早く見たくなって、急いで登る。
Aの隣まで行くと、本当にわぁ！という声が出た。

川沿いの舗道にずらっと植えられた桜。
薄いピンク色と芝生の緑と、川に映った空の色が凄くきれいで…。

「こんなとこに桜なんてあった？」

「何年か前に植えたんだって。子供の頃にはなかったよ。」

本当に穴場なのか平日だからなのか、人もまばらで、散歩している人が行き来しているくらいか。

二人で下まで降りて桜の近くへ行く。
遠くからでも近くでも、凄くきれいだ。

そばにあるベンチに荷物を置いて、早速Aがカメラを出した。

「もう撮るの？」

ちょっとくらい花見しようよ。

「撮りながらでも充分桜は堪能出来るからね。さ、いきますよー！」

あ、仕事モードになってる。

「何、撮影会？(笑)」

あくまで冗談で言った俺。なのに。

「もちろん！去年撮れなかったからね。念願の結弦と桜！」

いきなりカシャと撮られた。

「……。」

これ周りに誰もいないからいいけど、相当恥ずかしいぞ。

「もっと笑って、桜には笑顔じゃない？」

表情を要求してきた！…なんかこれ。

「仕事っぽい…。」

「まだ険しい！」

あーもう！なんか騙された感半端ねぇな！

「なんか面白いこと言ってくれなきゃ無理！」

こっちからも要求してやった。

「…an・anでノリノリで撮影してたの誰だっけ？」

…やらせていただきます。





Aの要求は凄くて。
撮影(？)が終わる頃には、俺はすっかり疲れて果てていた。

「お腹空いたんだけど…。」

時間はちょうどお昼時。
疲労と空腹で若干不機嫌な俺。

「そうだね、お弁当にしよう。」

え、そんなの持って来てたんだ。
荷物を置いたベンチまで戻って、カバンの中から何か出した。

「あ、おにぎりじゃん！」

いつの間に作ったんだ。

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