嘘と真実7

【幸せ】14 ページ23

「試合にはどこからでも駆けつけるよ！」

ありがと。
…まだもう少し、二人で現役頑張るか。

最終的に、今回の写真は多めに提出したようだ。
向こうで選べということらしい。

とにかく。明日のエキシが終わったら、早く日本へ帰って落ち着きたい。

「あ、仙台に帰ったらすぐ引っ越しだから。」

「…え？」

「もう身内経由で住むとこ頼んだ。仙台ならどこでもいいって言ってたでしょ。」

iPhoneを操作して、以前送られてきた物件の画像をAに見せる。

「…何階立て、これ。」

画面じゃわかりづらいか。

「さぁ、20階くらいじゃない？」

「ふーん…何階に住むのかな？」

「最上階。」

目を丸くするA。
かわいい(笑)

「……フィギュアスケーターの金銭感覚ってどうなってんの。」

…ま、大人だし？
俺の家族が住む大切な場所だから。

「あ、引退したらすぐ子供欲しい！」

来季は我慢するとして。

「ばっ！…やめて、こんな所で恥ずかしい！」

まだチームの人達が何人かいるのに！と小声で怒られた。
言うくらいいいだろ。

「引退後の楽しみくらい用意しとかないと(笑)」

もう決めたから。

「さっきまで落ち込んでたのに、急に機嫌よくなっちゃってさ。心配して損した！」

にやにやして！と言われてしまった。
別にいいだろ。

「羽生選手、表彰式が始まりますのでお願いします。」

「はーい。…じゃ、行こっか。」

「うん。」

いつものように一緒に会場へ向かう。
気持ちも、もうすっかり上向いた。

世界選手権。
優勝こそ出来なかったけど、それ以上の何かを得た大会だったような気がする。

「でも絶対来年は優勝してやる…。」

表彰式へ向かう廊下で固く誓う俺を、Aがすかさずカメラでおさめる。

「あ、良い表情。」

雑誌の表紙いけるかも。と、歩きながらAがカメラの画面を見せてくれた。

キッと前を見据える俺の横顔がそこにある。

「その写真、後でiPhoneに送って。」

今のこの気持ちを忘れないようにするため。

寒い会場に着いてから、ぐるっとリンクを見渡す。
着ているジャパンジャージを脱いでAの肩にかけた。

二番目に呼ばれるであろう表彰式。
誰より一番の笑顔で出ようと、堅く心に誓った。

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