こんな時だけ ページ29
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昼間スタジオですれ違ったAが、どこか少し様子が変で、のぶが心配そうにしてたのも、気になって、仕事終わりに彼女の家へ向かう。
最近忙しそうとはいえ、俺も今日は遅くなったし、さすがに家にいるだろうと思って、玄関の扉を開ければ、灯りがついた部屋。
「………Aー?」
リビングの灯りは付いているくせに、誰もいないから、不思議に思って名前を呼べば、どこからか、水が流れる音。ああ、シャワー浴びてんのか。
ソファに座って、近くに散らばった彼女の台本をちらっと見ながら、出てくるのを待つ。一体いくつ並行してアニメ撮ってんだよ。
『………わ、えっ、良平さん?』
「おー、ごめんね、突然。」
『いや、いいけど、え(笑)びっくりしたー』
そう言って笑う彼女は、キッチンに向かってグラスに飲み物を入れている。
『何か飲む?』
「んーん、いーや。ね、A。こっち来て」
『へー?(笑)』
グラスを持ちながら俺の近くまで歩いてきた彼女に向かって、俺は座りながら彼女と目を合わせて、手のひらで膝を軽く叩く。
「おいで」
『え?(笑)どうしたの』
「いいから」
『ふふ、ちょっと待って』
「あーもう、ほんとに」
『うわっ!?』
わかった。Aの違和感。どうにも、仕事の雰囲気がまだ抜けてない。普段はそんなことないくせに、今は自宅で俺しかいないのに、現場で会う時の雰囲気と変わらない。切り替えが上手くできないなんてことないはずだけど、もしかしてわざと?
そんなことを考えながら、躊躇って抱きついてこようとしないAの腕を、勢いよく引っ張って、無理やり膝に乗せて向かい合わせになる。抱きしめたまま、後頭部をゆっくり撫でて。
『なに、良平さん。甘えたがり?珍しい』
「………ずっと気張ってんの?」
『………ん?』
「普段は何も言わなくても甘えてくる癖に、言っても甘えてこないのは、俺に抱きつくと気が抜けるから?」
『えっ、と、』
「A、わざと、こうしてんだろ」
彼女の肩を掴んで、少し起き上がらせて、目を合わせれば、すっと、目を逸らされるから、片手を頬に当てて無理やりこちらを向かせる。
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作者名:シカク | 作成日時:2021年12月1日 20時