視界に暗幕、恋は横着 (ページ6)

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弟に裏切られる話。ページ6

【無視と自己暗示、きょうだいと愛】 東京23期/tkhr

　直樹のことを一番知っているのは私だ。
　若きカリスマ、お笑いオタク、M-1王者の、高比良くるま。世間は彼のことをそう定義して、都合よく偶像化しすぎていると思う。
　高比良くるまという人物がそうやってはしたなく切り取られて綺麗な部分だけ齧り尽くされていくのを見るたびに、私は悔しくなって「違う」と声を上げてしまいそうになった。
　違う、ちがう、全部ちがう。世間はなんも、わかってない。
　直樹はもっと、本当はもっと変なやつだ。

　でも。決して嫌いじゃないけれど、まるで恋人みたいな顔をして「おかえり」と玄関を開ける片割れに、私は何度、気づかぬふりをしなければいけないのだろう。

「なんか、俺のこと避けてない？」
　それを聞いてまず最初に思ったのは、とうとう気づかれたか、ということ。

「A」
「なに、」
「ごめんね」

　それは二度目の謝罪だった。まるで我儘を言う子供に言い聞かせる父親、みたいな。

「なぁ、もう全部壊そうよ」

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※近親恋愛の描写があります。