視界に暗幕、恋は横着 (ページ5)

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憧れの先輩から海に誘われる話。ページ5

【さいごの砂がおちるまで】 大阪36期/永見

　始まりは、楽屋でのふとした一言だった。
「遠くに行きたいって思うんだよね」
　スマホから顔を上げぬままそう呟いたAさんに、僕は一瞬反応していいのか迷って彼女に顔を向ける。するとAさんは僕の方を見て「永見はそう思わない？」と聞いてきた。取り敢えずそうですねえ、なんて時間稼ぎをして、僕は一体どう返すのが正解かを考える。ボケるべきなのか、真面目に返すべきなのか。
　Aさんは掴めない人だ。ノリも良くてよくボケるしツッコミもできるけれど、なんというか、いつもどこかふわふわしている。何を言ったら喜んで、何を言ったら怒らせるかが全く分からない人。

　どうやら正解を引けたらしい。伏し目がちに笑ったAさんに少し安心していれば、彼女はまた僕の名前を呼ぶ。

「……私ね、夢があるの」
「夢、ですか」
「うん」

　まるで、背中に隕石がぶつかってきたかのような衝撃。

　太陽が雲に覆われる瞬間を初めて見ている。地面にぽたぽたと雫が落ちて泣いているんだとわかった。

「僕のこと好きになって、おばあちゃんになるまで、ずっと僕と一緒に生きて死んでください」

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