恋なんて知らなかった (ページ48)

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士門がこちらへ歩いて来る。観念しかけたところで士門の前に紅緒が立ちはだかった。

貴「紅緒...！」
士「！」
紅「Aさんは...確かにここにいます。でもAさんが帰りたくないと言っているんです！だから私は...ここを通しません！」
貴「紅緒...ありがとう...」
有「べ・に・お・く・う・～～～～・ん・？」

有馬も立ち上がり紅緒を見下ろす。笑顔だがその顔は引きつっている。

有「通してくれるかなぁ？僕達は今くだらない言い争いに付き合っている暇はないんだよ？」
紅「そうだとしても...通しません！」
ろ「ってゆーわけだから帰った帰った！」

何とか追い返してくれそうだ。本当に2人には感謝の気持ちでいっぱいだ。すると

士「...頼む。少しだけでいいからAと話をさせてくれ」

そう言って士門がろくろと紅緒に頭を下げる。

ろ/紅「...」
貴「士門...」
ろ「いいぜ。だけどAが嫌がってんならすぐに帰ってもらうからな！」
士「分かった。感謝する。双星」
紅「私達は下で待ちましょう...」
ろ「そうだな！」

士門が階段を上がって来た。逃げることもできずにその場で立ち尽くす。

士「Aっ！」
貴「士門...」

士門が私の元へ近寄りそっと抱きしめて来た。ふっと感じた温もりに涙が出そうになる。

貴「士門？」
士「心配...したんだ...」
貴「ご、ごめん...」
士「俺は...お前を受け入れる。どんなところもだ。婆娑羅と友達でもお前はお前だ」
貴「...」
士「だから戻って来てくれ。陰陽連に居づらいなら斑鳩家に来ていい。俺がお前を守ってやる」
貴「ありがとう、士門...」

士門の不器用な優しさに触れて私の冷えていた心は溶けていった。頬に触れられて顔を上げると士門の顔が近付いてきた。目を閉じたすぐ後に士門の唇が触れた。

貴「...」

顔を離した後また抱きしめられる。居心地が良くてしばらくそうしていたがふと一階が騒がしいことに気が付く。そう言えば有馬がもうすぐ皆が来るとか言っていたな...

貴「降りよっか」
士「そうだな」

一階へ降りると皆がこちらを向いた。

ろ「A！大丈夫なのか？」
貴「うん。ごめんねろくろ。私は帰るよ。お世話になりました」
ろ「世話になんかなってねぇよ！どっちかって言うと俺らが世話になっちまったし」
紅「またAさんの料理...食べたいです」
貴「ありがとう。また来るね！」

それじゃぁ、と双星宅を出る。ろくろ達が家の中へ入ったところで私は覚悟を決め、皆の方を向いた。