◆ ページ21
俺は車から降りて「お嬢様？」とAを呼んだ。
本当に、無意識だった。ただ、Aが取られるような気がして、それしか頭になかった。
「え、センラさん？どうしてここに？」
「奥様の送迎でここを通りかかったらお嬢様を見つけたんです」
Aに軽く説明をしたら俺はAと向かい合うように立っていた男に頭を下げた。
「九条家の使用人をしております、折原センラと申します…お嬢様の御婚約者の黒崎輝様でいらっしゃいますね？」
「あぁ、せやで…それにしても君、この状況に入ってくるなんて度胸あるなぁ」
あくまでも笑顔で、話しているが恐らく内心では俺の行動に苛立っているのだろう。当然だ、使用人如きが会話に割って入るだなんてあってはならないことなのだから。
しかしそんなことで慌てるようじゃ執事というものは務まらない。俺は冷静に、上手い言い訳を考えて形だけの謝罪を述べた。
「申し訳ありません…偶然お嬢様をお見かけしたのですが、何分遠い所からでしたので黒崎様のお顔が見えなく、万が一お嬢様が御婚約者である黒崎様以外の男性とお会いしているようなことがあったら、と思いお声掛けを致しました」
「……なんや、そうやったんやな。悪かったな、責めるような言い方をして」
「いえ、こちらの確認不足ですので」
彼は俺の話が胡散臭い、と感じたのか一瞬だけ此方を警戒するような瞳をしたが、すぐに笑顔に戻った。この話をこれ以上続けても意味が無いと思ったのだろう、話が分かる人で助かった。
「では、私はもう車に戻りますがお嬢様はどうなさいますか？」
「え、私？」
いきなり自分に話を振られて戸惑った表情を浮かべたA。
「はい。このまま屋敷に戻るのなら私がお嬢様をお乗せいたしますが、どうしますか？」
Aにあえて選択させるだなんて我ながら意地悪だなと思う。
多分、俺は期待しているんだ。Aはアイツやなくて俺を選んでくれるって。
「え、えーと…」
困惑した表情を見せながらAは彼の方をチラリ、と見た。
「あぁ、Aは俺が送っていくから君は先帰って大丈夫やで」
「…そうですか。かしこまり」
「や、やっぱりセンラさんと、帰ります」
「…A？」
俺の言葉を遮るように口を開いたAの言葉に、思わず笑みが零れそうになった。
その後の、彼の驚いたような声が俺の優越感を刺激して気分がいいだなんて、絶対に悟られてはいけない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 644人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
時雨(プロフ) - おもちもちもちさん» コメントありがとうございます!!そう言っていただけるとこちらのモチベーションにも繋がりますのでとても嬉しいです(; ;)もう少しでまた更新できそうですのでそれまでもうしばらくお待ちいただけるとありがたいです^^* (2020年2月17日 17時) (
レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
おもちもちもち - やっっっっべぇめっちゃ好きです…(俺の語彙力飛んでった←)更新楽しみにしてるんで、無理のない程度に頑張ってくださいね！(？) (2020年1月17日 1時) (レス) id: b8721ff069 (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - さくりさん» 返信遅れてすみません…!!コメントありがとうございます!!もう少ししたら更新が出来そうですので、それまでお待ちいただけるとありがたいです…!! (2019年12月5日 21時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
さくり - 初めてコメントをさせていただきます〜、さくりです！この話自分にドストライクすぎてヤバいです…！更新待ってます！！ (2019年11月9日 17時) (レス) id: 11e1fd3e2e (このIDを非表示/違反報告)
時雨(プロフ) - ぽんずさん» コメント＆通知登録ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです、これからも頑張りますね！ (2019年7月15日 21時) (レス) id: 27a105a2bf (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
