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いざ旅立ちの準備をする段になって、改めて自分が送ってきた生活の酷さを思い知った。
身の回りのものも満足に買い与えられていなかった俺には、持っていくべき荷物らしい荷物もなく、ほとんど身ひとつ。
まあ、逃げるのには好都合といえば好都合なのだが、やはりどこか侘しい。
見かねた涼太が自分の持ち物からあれやこれやと持たせてくれようとしたけれど、流石にそれは申し訳ないので断って、代わりに涼太との思い出が欲しいなんてロマンチックなことを言ってみる。
dt「別に今生の別れでもあるまいし」
涼太は口ではそう言って笑い飛ばした。
けれど、俺は見逃さなかったんだ。その時、彼の目に薄らと涙が浮かんでいたことを。
「ねえ、いいでしょ？たまには俺にもわがまま言わせてよね」
dt「…っ、それはずるいって…今まであんだけ我慢してきた翔太にそれ言われたら、なんかもう…それはダメだって」
涼太はまだ涙目でグチグチ文句を言っていたが、お構いなしに肩を組んでパシャリと写真を撮る。
dt「あー、もう、俺めっちゃ変な顔になってんじゃん！やり直し！」
「はいはい、わかったから。いくよ…はいチーズ」
「あ、これいいじゃん」
しばらくわちゃわちゃとやった後、出来のいい1枚を選んでコンビニでプリント。
「これでいつでも涼太と一緒」
dt「ねえ、わざと泣かせようとしてる？」
「…さあねー」
本当はそんな意図などなかったが、それはそれでナチュラルキザヤローみたいで逆に恥ずかしいので、必死に誤魔化す。
俺のそんな小さな隠し事に、彼は気づいたのだろうか。
dt「じゃあ、気をつけて」
「涼太も」
dt「俺は平気だって」
「よく言うよ、俺がいなくなったこっからが肝だろ」
dt「だから大丈夫だってば」
(最後の最後まで頑固かよ…)
いつまでも変わらない涼太の性格に呆れつつ、今日はそれすら嬉しいような気がして、ああ、俺もちゃんと感傷的になってたんだなあ、なんて気づく。
「一緒に夢叶えような」
dt「うん」
最後にひとつだけハグをして、涼太を背に歩き出す。
俺も、そして多分涼太も、そこからは一度も振り返らなかった。
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わかめ(プロフ) - chacoさん» コメントありがとうございます。そこまで言って頂けるとは…今心臓がものすごくバクバク鳴ってます！笑 引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。 (2020年6月10日 20時) (
レス) id: ebf6dbcbb7 (このIDを非表示/違反報告)
chaco(プロフ) - はじめまして、コメント失礼します。本当にこのお話が面白くて、書籍化して手元に置いておきたいくらい大好きです。毎日更新楽しみにしてます。これからも頑張ってください！ (2020年6月9日 22時) (レス) id: c6e12b87e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：わかめ
| 作成日時：2020年6月3日 0時
