ありふれた日常 ページ31
kj side
戻ってきてしばらくは、平々凡々な学生生活を送っていた。
俺の人生の分岐点はまだ先で、今のところは何をしなければならないということもない。
だから、あの頃と変わったことといえば、阿部さんや目黒さんから向こうの状況がたまに送られてくるようになったくらい。
そうこうしているうちに、楽しい高校生活はあっという間に過ぎていった。
そして、春休みに東京に遊びに行って「仲間」何人かと再会し、紫耀とはそこで涙ながらに別れ、俺も晴れて大学生になった。
大学では、講義もさることながら、サークルにバイトにと忙しい日々を過ごした。
ひとたび家に帰れば家族が笑顔で迎えてくれて、美味しいご飯が食べられる。
たまに俺が料理番をかって出れば、みんなが美味しい美味しいと言って食べてくれる。
ありふれた日常だが、ご飯も喉を通らなくなるようなどん底を経験した身としては、それがまたこの上ない幸せでもあった。
出来ればそんな何気ない幸せにいつまでも浸っていたかった。
しかし一方で、果たしてこのままでいいのかという焦りも抱いていた。
流されるまま生きている現状に、あの時はむしろそれが典型的な大学生の姿だなんて開き直っていたけれど、今は違う。
向こうの世界で皆の話を聞いて、1日1日が、自分の選択ひとつひとつが、大きな意味を持つかもしれないことに気付いてしまったからだ。
さらに、漠然と抱いていた所謂「エリート商社マン」の憧れが無残に崩れてしまった今、俺は自分がどんな道へ進むべきなのか、その選択肢すら見えずにいた。
もちろん同業他社を目指すのもいいのだろうけれど、何かが引っかかる。
いや、何かと言いつつ、内心ではその正体がわかっているのだ。
俺の求めているものは、本当の幸せは、多分その道にはないということが。
目黒さんがあの時言ってくれた、『向井さんに言われると、言葉がスッと入ってくる』という言葉が、自分でも驚くくらい嬉しかった。
だったら、それを形にすることを、もっと真剣に考えてもいいんじゃないか。
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わかめ(プロフ) - chacoさん» コメントありがとうございます。そこまで言って頂けるとは…今心臓がものすごくバクバク鳴ってます！笑 引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。 (2020年6月10日 20時) (
レス) id: ebf6dbcbb7 (このIDを非表示/違反報告)
chaco(プロフ) - はじめまして、コメント失礼します。本当にこのお話が面白くて、書籍化して手元に置いておきたいくらい大好きです。毎日更新楽しみにしてます。これからも頑張ってください！ (2020年6月9日 22時) (レス) id: c6e12b87e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：わかめ
| 作成日時：2020年6月3日 0時
