届かない思い ページ26
ab side
そう、正直俺も人のことばかり気にしている場合ではなかった。
こちらの世界に戻ってきてからすでに数週間が経つというのに、未だに兄の姿を見ることすら出来ていないのだから。
「兄ちゃんただいま。今日は寒いけど、体調崩したりしてない？」
「夕飯、部屋の前に置いておくね。今日は兄ちゃんの好きなハンバーグだって」
「今日ね、たまたま小学校の時の友達に会ったんだ。ほら、ずっと前にうちにも遊びに来たの、兄ちゃん覚えてない？」
出来る限りプレッシャーにならないように、言葉を選んでたわいもない話をする。
しかし、何を言っても、ドアの向こうからは返事のひとつも聞こえなかった。
事件まではまだ時間があるとはいえ、このままの状態が続けば続くほど、彼が外に出るハードルが上がっていくのは自明の理だ。
何とかして、兄が外に出るきっかけを作らなければ。
そのためには、やはり目黒さんが言うように、起爆剤…つまり、ある程度兄が衝撃を受けるような出来事が必要なのだろうか。
しかし、それが悪い方向に働いたら元も子もないし…
(やっぱり、俺には無理なのかな…)
(…「仲間」の命がかかってるのに、こんな簡単に挫けるなんて、俺最低だな…)
答えの出ない問いへのイライラと、ダメな自分への嫌悪感が意味もなく増していく。
その日は「仲間」と会っていたこともあって、ベッドに入ってもなお、俺はその思考に囚われ続けていた。
体は疲れているはずなのに、何故かそのまま眠りに落ちることも出来ない。
だから、俺はひとつため息をつくと、水でも飲んで気分を落ち着かせようかと、階下のキッチンへ向かったのだが…
『亮平っ…』
それは幸運だったのか、それとも不運だったのか。
階段を降りた先には、こんな深夜に風呂に入っていたらしい兄の姿があった。
俺は思いがけない形で、兄と(この世界でいうと多分)約1年ぶりの再会を果たしたのだ。
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わかめ(プロフ) - chacoさん» コメントありがとうございます。そこまで言って頂けるとは…今心臓がものすごくバクバク鳴ってます！笑 引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。 (2020年6月10日 20時) (
レス) id: ebf6dbcbb7 (このIDを非表示/違反報告)
chaco(プロフ) - はじめまして、コメント失礼します。本当にこのお話が面白くて、書籍化して手元に置いておきたいくらい大好きです。毎日更新楽しみにしてます。これからも頑張ってください！ (2020年6月9日 22時) (レス) id: c6e12b87e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：わかめ
| 作成日時：2020年6月3日 0時
