美しい人と。 (ページ7)

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幻想 (※EXPOセトリネタバレ) ページ7

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｢今はまだ会えない｣

脳内で自分の声が冷たく響く。

俺の様子を察した彼は、
画面のさらに奥へと姿を消した。

華奢な背中が暗闇へと飲み込まれていく。

トレードマークとなった明るい髪の毛も影を落として
まるで俺ら出会った頃の幼い彼。

フラッシュバックした記憶。
熱を持ち始めた目頭を拭って酒を喉に流し込む。

それは緊急事態宣言が発令された最中のことだった。

…

マネージャーに声を掛けられ目を覚ますと、
俺はアリーナツアーの楽屋にいた。

目の前にソファが3つある。

俺のも含めて、4つだ。

空っぽの空間を見て虚しさが込み上げた。
そしてまた見て見ぬふりをする。

まるでそこに透明人間が座っているような気もしていた。
まだ彼の気配を消しきれない。

増田｢ソファ3つで良くない？｣

小山｢そうだね。スタッフさんも重いだろうしね｣

加藤｢…｣

ｽﾀｯﾌ｢あっすみません。いつものルーティンでつい、｣

…

ツアー初日。

手渡されるままマイクを握った。

装飾のついた衣装をまとい、
鏡の前で前髪を整える。

円陣を組み、メンバーと鼓舞しあった。

彼の声が聞こえた気がした。

音楽ツアーでは無かった彼の面影が、
今さらになって思い出される。
あの頃はきっと現実逃避しようと必死だったんだ。
現実を歌って、悲しさから目を背けたから
今になって思い出されたのかもしれない。

今回セトリに組み込んだあの曲が
言霊みたいに彼を蘇らせているんだと思った。
嫌いじゃないし、今もまだ彼を隣で見ているようで。

1度互いに向き合って話すべきなのに。
もうマスク越しになら会いに行ける距離なのに、

まるで死んだ人間、離婚したパートナーに
会いに行くような息苦しさを感じて、

俺は返信を躊躇った。

俺らのトークルームはあの頃のまま止まっていた。

｢｢｢｢立ち止まっていたとしたって｣｣｣｣

ないはずの四重奏。

幻聴と呼べる存在の声がイヤモニを伝って
俺は思わず傷口の痛みに顔をしかめた。
ステージから見えるペンライトの景色が淡く滲んでいく。

今まで押さえ込んできた感情が
溢れ出てしまいそうだった。

マイクへ叫びながらぎゅっと目を閉じると、
瞼の裏で彼がこちらを振り向く。

眩しい笑顔のまま。あの頃のまま。
STORYパーカーを羽織ったまま。

彼が嬉しそうに笑った。

そうだった
そうやってキミはいつも笑っていた。

増田｢消えない虹を見つけたとはしゃいでいたね｣