美しい人と。 (ページ6)

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愛とはなんだ

家族ってなんだ

使命ってなんだ

抱擁を交わす加藤さんの背を見つめながら
私はぐるぐると考えた。

間違いなく、彼の物語だ。

だから、彼が愛して当然。

愛せなければ、ここまで描くことはできまい。

でもどうだ、
私は彼らを愛せたか

抱き締める勇気があるか
いや、ない。

私は彼らが怖くて怖くてたまらないのだ。

ふと皮膚の焦げた臭いがして後ろを振り返る。

と同時に、焼けるような痛みが全身に走った。

｢ほじなしが。｣

低い男の声が耳元で響く。
傑が原油まみれの黒い姿で私に抱き着いたのだ。

痛い、こわい、化け物だ、離せ、しにたくない

目から涙が溢れて、必死にもがいた。

視界の端で、加藤さんがこちらを見つめている。
彼の腕には幼い道生が包まれている。

焼け死にそうな痛みに足すようにして
首にホースが巻かれた。

肩口に女の脚がかかる。

八重が私の首を締めている。

私は兼通が乗り移ったようにもがいた。

息切れ切れになって、必死に手を伸ばした。

加藤さんは、私を抱き締めてくれはしなかった。

丸焦げになって力尽き、地面に膝をつく。

痛みは感じなくなっていた。
ただ、視界と聴覚だけがまだ生きていた。

彼への気持ちは変わらなかった。

それだけ愛しているからだ。

加藤さんが私の目の前へやってきて
幼い子と目を合わせるようにしゃがみこむ。

哀れ、非情にも満たない、
ただただ愛おしそうな瞳でこちらを見つめてくる。

いつもの優しすぎる、あの瞳だった。

そうか、彼は私を信じたのだ。

信じたから何もしなかった。そこから見守った。

信じることは、時に、
抱き締めるよりも愛が深く覚悟がいる。

何かして欲しかった。助けて欲しかった。
抱き締めて欲しかった。

そう言って泣いた私に、
彼は困ったように小さく笑った。

甘えるな
そう言って笑う彼に、私も観念して笑った。
それだけで私の心は満たされていく。

こうして私たちの愛は、紡がれていくのだ。

彼に育てられ、
いつかきっと大人になる日を夢見て。