迷子の迷子の ページ6
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(side GREEN)
『あ、』
神「もしもし姫さん？どした？」
『あの、神山くん、誠に申し訳ないのですけれど』
神「ふは、姫さんがそう呼ぶ時はほんまに困ってる時やなあ」
仕事の都合で同じ新幹線に乗れんくて、一本遅れで乗り込んだ姫さんからの着信は、申し訳なさが声から伝わるくらい丁寧な言葉から始まった。
神山くん、なんて今でもたまにジュニア時代と同じように呼んでくれることはあるけど、こういう時の"神山くん"は"助けて"とイコールやねん。
新幹線がダイヤ通りに動いてるのは確認済みやし、電話口の声はむちゃくちゃ焦ってるわけではなさそうやから、とりあえずは一安心かな。
神「ん、どうした？」
『あの、とっても言いづらいんですけど、』
神「うん、ええよ。なんでも聞く」
『……梅田駅と大阪駅って、』
神「…待って姫さんもしかして迷子？？」
通い慣れた大阪で、散々行ったり来たりしてる姫さんが？
もちろん新幹線が到着したのは新大阪駅で、姫さんの居場所も新大阪駅に間違いはないんやけど。
「梅田駅と大阪駅って、」って言い回しはジュニアの頃によく梅田駅で迷子になった姫さんが、俺に助けを求める時にいつも使ってた合言葉のようなもの。
久しぶりに聞いたその言葉にまさか、って思った驚きが声色に乗ってもうたらしく、恥ずかしそうに『だってぇ』って言うた姫さんが可愛い言い訳をはじめた。
『新幹線はちゃんと降りてんもん、』
神「んふ、そこは疑ってへんよ」
『飲み物とお菓子買おうと思って、出たとこのセブイレは欲しいのなくて、ちょっと奥のセブイレ行ったら、』
神「迷子なっちゃったんや？ 」
『…うん 』
神「今はどこおんの？」
『セブイレの前でじっとしてる』
神「お、偉いやんか」
『ごめんなぁ、』
神「ええよ、待っとき。すぐ行ったる」
昔迷子になった時に「迷ったらじっと動かんこと、絶対見つけるから」って俺が伝えた言葉をきちんと覚えているあたり、やっぱり良い子で。
そんで、時間としては少しの差やから待っとこうって駅近くに停めた車におった俺を褒めたい。
マネージャーに合図をして車を降りてから数分、しゅんと肩を落としたAを見つけて覗き込めば、嬉しそうに笑う顔が昔と同じで、随分と懐かしくなった。
神「あの頃より大きなったのにな」
「人って簡単には変われへんのやな…」
神「迷子の才能もあるかぁ」
「そんな才能いらん…！」
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作者名：竜胆 | 作成日時：2023年10月22日 19時
