君のこと ページ37
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(side RED)
重「後ろハネてんぞ」
「そお、直らへんの」
重「直したろか」
鏡の前で俺と並んで立つ彼女の髪は、後ろの右下あたりについた寝癖がぴょこんと跳ねて、直らへんみたい。
寝起きで歯磨きしてる俺と、出かける準備をしているAと。
昼過ぎから仕事の俺と、オフを満喫する予定の彼女。
仲良しの友達と出掛けるらしく、可愛い顔で可愛い服着て、俺を置いて遊びに行きよる。
…セット上手いこといかへんのは、出掛けんでええってことちゃう、
なんて思いながら、くるくると毛先を指で弄んだ。
「ほんま？アイロンしてくれる？」
重「ん、かしてみ」
「やけどしたあかんで」
重「へいへい」
俺好みのサラサラの髪を撫で付けて、一掬いしたところをアイロンでゆっくりと熱を入れていく。
ぴょこんと跳ねとった寝癖は一瞬でキレイな真っ直ぐになって、ああ真っ直ぐなってしもたかぁ、と少し残念に思った。
ふわふわと揺らした髪が冷めたのを確認してからアイロンを返せば、ありがとうって振り返った彼女の笑顔の方がふわふわで可愛くて困る。
重「…気ぃつけて行けよ」
「うん、ありがと」
重「なんかあったら連絡すんねんで」
「はあい、しげちゃんもお仕事頑張ってなぁ」
重「ん、任せろ」
上機嫌に微笑む彼女を玄関で見送って、時計を一瞥してから脱力してまたベッドに沈んだ。
置いてきぼりの寂しさを紛らわすために毛布にくるまれば、ふわりとAの香りがしてまた寂しくなる。
…さっきもうちょい構ってもらっとけば良かった、と思うあたり、どちらかと言えば飼われてるのも、想いが強いのも俺みたいでちょっと悔しいけど。
ごろんと寝返りを打ったら、玄関から鍵の開く音がして。
恋しすぎて空耳でも聞こえてもうたんかと思ったけど、近付く足音に急いで身体を起こした。
寝室のドアを見遣れば、向こうから愛しい彼女が顔を覗かせて。
「あ、いた」
重「…え、忘れもん？」
「うん、わすれもん」
重「ビビった、言うたら持って行っ、」
中途半端に上体を起こした俺に伸し掛るように近付いたAが、俺の言葉を遮ってキスをくれるから、開いた口が塞がらんくてアホみたいにぽかんとする。
重「…へ、」
「ちゅうすんの忘れてた、行ってきます」
重「……行、ってらっしゃい」
……ずっっっっっっっる。
これ以上好きにさしてどうすんねんマジで。
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作者名：竜胆 | 作成日時：2023年10月22日 19時
