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(side RED)
縺れそうな脚で走り出して、車に飛び乗った俺が辿り着いたのは、通い慣れたマンション。
地下駐車場に停めた車のキーを握りながら、部屋番号のボタンへ手を伸ばして、少し固まった。
また門前払いなんかされようもんなら、もうヘコんでもうてどうにもならんかもしれへんし、やっぱり1回電話してから。
いやでも電話さえ出てくれへんかったら。
まだ合鍵は持ってる、使えばコールを鳴らさずとも部屋までは行けるけど。
俺から別れを切り出した手前、合鍵を使うというのも。
…やっぱり合鍵使って部屋まで行って、その後は行ってから考え、
「…しげ、？」
重「うわっ」
びく、って肩が跳ねて、声の主を振り向けば、晩飯の買い物をしてきたらしいAが首を傾げながらエコバッグ片手に立っていた。
そんな驚かんでも、って笑うAの姿にぐわって色んなもんが込み上げて、歩幅大きく距離を詰めるけど、突き出された掌に制止されてしまう。
広げた腕は、彼女に触れることなく宙に浮いた。
「どしたん？やっぱり話あった？」
重「…話もあるし、他もある」
「…車で来た、よね。車で話そっか」
重「……上がったら、あかん？」
突き出された小さな掌に俺の手を重ねて、指を絡めながら低く問い掛ければ、俺の視線にほんの少したじろいだ彼女は「…玄関まで、なら」と小さく呟いた。
インターホン越しやったら到底勝てっこないけど、面と向かってやったら、一応。
お前の好きな仕草も、声色も、分かってるはずやで。
重「…持つわ」
「ううん、大丈夫」
重「…俺、いっぱい言わなあかんことが」
「うん」
エレベーターの中。
モーター音だけが響く静かな空間で、彼女の階に止まるのを待つ。
荷物を持とうかと掛けた言葉は優しく弾かれて、差し出した手はポケットへ。
…いつもなら、ありがとうって俺を頼りにしてくれるのに。
「荷物置いてくるから、待ってて？」
重「ここで？」
「玄関までって言うたやん」
重「…なんでなん」
「なんでも。」
通された玄関は、何の変わりもなく。
匂いも、雰囲気も、俺の知ってるまま。
そわそわと待っていれば、ペットボトルを手にしたAがお水飲む？なんて言いながら玄関に戻ってくる。
急いで来たのは、とっくにお見通しらしい。
水ひとつにさえ泣きそうになりながら、ゆっくりと口に含んだ。
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作者名：竜胆 | 作成日時：2023年10月22日 19時
