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(side RED)
Aが楽屋を出て。
聞かれへんかった、って床にへたり込みながら呟いた俺の肩を照史が優しく叩いて、濱ちゃんが頭を撫でてくれた。
そこからは、絶望の中。
気付いたら家に帰ってきてたけど、あの日からも変わりなく俺の部屋に存在する、Aが傍にいた証の数々が、今は少し、つらい。
何度息を吐いても出るのは溜息ばっかりで、沈む気持ちにきっと底は無くて。
終わりや、なんて、言わんかったらよかった。
別れたとも、言わんかったら。
俺が怒ったことに変わりは無いけれど、こんなに距離が出来てしまうようなことは無かったんやないか。
…いや、そもそも、問題はあのマグカップで。
結局真相を聞いてないからなんとも言われへんけど、どうせ隠すんやったら俺に分からんぐらい綺麗に嘘ついてくれや、と思う。
…聞かれて戸惑うぐらいやったら、普段から使うなよ。
…割ったのは、俺が悪かったけど。
重「……なんかやれるやつあったっけ、」
反省も込めて、渡せるものがあるかと棚を開けてみるけど、…やっぱりこういう時って新品がええん？
同じやつの新品は、またそいつの事を思い出しそうやから到底渡せそうにはないけれど。
どうせやったら、俺の愛着こもったやつ使っといてくれれば、より俺のモン、って感じがすんのに。
風呂上がり、新品のパジャマ着てる時より俺の服着てる時の方がカワイイとか、そういう感じと似てる。
…いや、新品のパジャマも可愛いねんけどな。
重「…うわ、懐かし」
棚の奥のほうから取り出したマグカップは、付き合って1年とかそれくらいの頃。
まだ俺もアイツもガキやったけど、子供ながらに、せっかくの記念日はお祝いしたい気持ちがあって。
記念日の少し前に俺が買って渡したやつを気に入って、お揃いは見つけられへんかったけど、ってAが俺にくれたもの。
重「…勿体なくて全然使われへんねんなぁ、」
…久しぶりに使うか。
まじまじと見詰めて懐かしさに浸りながら、丁寧に洗っていく。
俺どんなんあげたっけ、確かこのマグカップと似たような感じの。
あー、そうや、
この間、俺が割ってもうたあのマグカップによく、
ぱりん。
泡と共に手の内から滑り落ちたマグカップは、シンクにぶつかって割れてしまった。
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作者名：竜胆 | 作成日時：2023年10月22日 19時
