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(side RED)
重「っ、ちょお、まだ帰ってへんよな？」
中「A？そこおるやん」
神「めっちゃ息きれてるけど、どした」
帰る準備をする面々の隙間を縫って、バッグを手に立ち上がろうとするAを引き留めるようにテーブルへ手をついた。
良かった、まだ帰ってへんくて。
このまま帰してもうたら、お前また、
重「してへん！」
「…ん？」
重「してへんからな？」
「なにを？」
重「オッケーもしてへんし、キスもしてへんから！」
きょとん、と瞬きを繰り返すAは、可愛らしくこてんと首を傾げる。
確かにさっき油断して抱き着かれて、背伸びなんかされてしまったおかげでキス寸前まで顔は近付いた。
それでも肩掴んで引き剥がしたし、むちゃくちゃに断ってきたし、そのまま彼女を放って、こうして走ってきたわけで。
あの一瞬だけ見てしまったお前が、勘違いせんように、傷つかんように。
「…なんでそれを私に言うん？」
重「……へ、」
「キスしてても、告白受けてても、私に関係ないやん」
重「…、でもお前、妬いてまう、やろ…？」
「ふふ、付き合ってもないのに、何言うてんの」
口元に手を当てて、なんでもないかのように笑うAは、もしかしたら、本当に、なんでもないんかもしれん。
…俺の事なんか、もう。
は、って腑抜けた息を吐けば、Aの後ろで驚いて固まってる小瀧が見えた。
濱ちゃんと照史がAを引き留めてくれようとするけど、"いつも通り"すぎて引き留める理由もなく。
俺を心配するような流星の視線を感じながら、立ち上がったAの姿をゆっくりと目で追う。
さっきまで、普通やった。
視線も合わん、喋りもせん、
そんな下手くそな、いつも通り。
それが、なにかをきっかけに。
俺との間にメンバーとの距離、なんてものを見つけてしまったらしいAは、おそろしいほどの順応性で、頭の中の俺を元恋人からメンバーへと変えた。
……ああ、そうか。
「合ってた？」のは、俺の求めていた言葉とじゃなくて、
メンバーの距離感として、か。
ひらりと手を振りながら楽屋を後にする彼女は、作り物みたいな笑みを浮かべて、それを本物に変えようとする。
「あ、話あるんやった？」
重「……いや、…いい、」
「…そう？じゃあね、しげ」
これが偽物の笑顔やって分かってるのに。
まともに、声も出せへん。
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作者名：竜胆 | 作成日時：2023年10月22日 19時
