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(side RED)
重岡さん、って後ろから声を掛けられて。
聞き覚えのない声に、はい？って振り返れば、スタッフの女の子がひとり、俺を見上げていた。
俺より少し背の低い彼女は、身長と髪型がAにそっくりで、だいぶ前に一回だけ、後ろ姿を2度見したことがある。
重「ん？俺忘れもんしてる？」
撮影で使ってた小物もアウターも、全部外した。
いや、そもそもアクセサリー類やったら後で外せばいい話やし。
それよりも俺、これから大事な話が控えとるんやけど。
『あの、少しお話が、』
重「ごめん俺ちょっと、大事な用あって」
『ちょっとでいいんです、！』
なんや粘るなあ、と思って、ほんの少しだけならと足を止める。
廊下の途中、少し入ったところで、頬を赤らめながら少し震えた声で俺を見上げる姿には、既視感があった。
ああ、そうか、恋人がおらんくなるって言うのは、こういう事か。
恋人がおっても何度かされてきた告白は、こっちがフリーやと分かった瞬間にハードルが低くなるらしく。
前にも俺とAが小さい喧嘩をした時に、図ったかのようなタイミングで告白してきてくれた人がおったなあ、と思い出す。
俺がこういう風に告白をされとるということは、無論、Aだってそうやろう。
…なんか最近距離近いスタッフ増えたなあと思ったけど、原因は俺がおらんくなったからか。
緊張した面持ちで彼女が何かを話すのを、Aの事を想いながらぼんやりと眺めていたせいで、まともに彼女の言葉を咀嚼することもなかったけれど。
きゅっと口を結ぶ少し前、『付き合ってください』って言葉はなんとなく聞こえていた。
重「ごめん、俺好きな子おるねん」
『、Aさんとは、別れたんですよね…？』
重「…あー、まあ、」
『…ずっと、好きだったんです…！』
重「いや…、気持ちだけ、ありがとうな」
泣きそうに水気の増した瞳には弱いんやけど、断るところはキッパリしとかんと、と思いながら頭を搔く。
…こういうの、苦手やねん。
泣かせてもうたらちょっと面倒やなあ、って視線を逸らせば、隣のブースでインタビュー受けてたAが廊下を横切るのが見えた。
待て、いま見んな、絶対見んなよ。
頼むから。
急に抱きついてきた彼女が背伸びするのと、視界の端で動いた影にAが気付くのは、同時で。
ちらりと向いた視線が、俺を捉えて、逸れた。
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作者名：竜胆 | 作成日時：2023年10月22日 19時
