FICTION ページ11
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(side RED)
ぱりん。
重「…あ」
やべ、
と思うのと同時に、音を聞いて駆けつけたAがキッチンを覗き込む。
我が家のように立ち慣れたキッチンで、泡のついたスポンジを片手に申し訳ない気持ちが溢れた。
「しげちゃん、大丈夫？」
重「すまん、コップ割ってもた」
「いいよ、怪我してへん？」
重「してへんけど、お前いっつも使ってたやつ、」
そんなん気にせんでいいよお、って俺の心配を優先してくれるAが、割れてもうたマグカップを視界に捉えて一瞬言葉を失った。
すぐに視線を逸らしていつも通りの顔をするけれど、その一瞬を見てしまった俺からしたらもう、いつも通りを装ってるようにしか思えんくて。
重「お気に入りやったやろ、」
「うん、でもいいよ、しゃあない」
重「あかん。新しいの探すわ」
「ふふ、もう随分前のやつやからなぁ」
重「どこで買うたん？」
「……、どこ、やっけな」
変な、間。
ちょっと言いにくそうにしたのを見いひんかったことには出来んくて、頭の中にハテナと暗雲がぼんやりと浮かぶ。
思えば長いこと持っとるし、ずっと大事そうに使ってて。
でも、反応を見る限り自分で買ったものではなさそうで。
そんなん、もう。
重「…男？」
「…ん？」
重「男にもろたんけ？」
「……え、と」
重「……お前、マジか」
鈍い反応と、再び逸れた視線に、立ち込めた暗雲は確信に変わる。
ひとりの時も、俺と一緒におった時も、ずっと気に入って使ってたマグカップが、まさか男からの贈り物やったとは。
大きな溜息と共に泡のついたスポンジを乱雑に置いて、また、溜息。
幾ら吐いても消えん怒りには、同じだけの幻滅も籠って。
重「言い訳なんか聞かへんからな」
「しげちゃん、」
重「謝って損したわ、割れて当然やんけ」
「……」
重「もうええ、終わりや」
もう一度大きく吐いた溜息にAは声も出さずに目線を下げて、その姿にぴりっと痛む心臓を知らん振りしながら荷物を掴んで玄関へ向かう。
シンクの中で割れたそれを見詰めたままのAの背中に絶望さえ抱いて。
重「そんな女やと思っとらんかったわ」
「…これは、」
重「せいぜいソレくれた男とでも幸せになれや」
言い過ぎるのも突っ走るのも、俺の悪い癖やって、分かってたはずやねんけど。
煮えたぎった嫉妬に駆られながら、彼女の部屋を出た。
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作者名：竜胆 | 作成日時：2023年10月22日 19時
