大丈夫。参拾 ページ33
義「すまない、すぐに帰すつもりだったのに遅くなってしまった」
『いいよ、そんなの。さて、もういい時間だし、銀が怒るし、そろそろ帰るね』
義「送っていく」
『ありがとう、じゃあお言葉に甘えて』
義勇は羽織を取ってくる、と言って自室に戻った。私は居間で義勇を待つ間、周りを見渡した。
『…質素だなぁ』
こんな些細なことが、時の流れを感じさせる。昔、鱗滝さんの家で一緒に住んでいた時は、義勇の持ち物が多くてよく錆兎に怒られていた。
義勇の持ち物箱には、鱗滝さん・錆兎・真菰・私からもらったもので溢れかえっていたから。
…それも、捨ててしまったのだろうか。
義「待たせた。行くか?」
『うん…あのさ、義勇。持ち物箱、まだある?』
義「…あぁ。何度か、想いを断ち切るために捨てようかと悩んだこともあったが…結局、捨てられなかった。今は自室の棚の横に置いてある」
『そっか…』
義勇が箱を大切にしていることが分かり、安堵感に包まれた。
『居間があまりにも質素だから、もしかしたら捨ててしまったかも。って思って』
義「…鱗滝さんからもらった物も、錆兎からもらった物も、真菰からもらった物も、Aからもらった物も、全て俺の宝物だ」
『っ…』
ふっと笑った義勇の笑顔が、今までに見たことのないくらい優しいもので、私もつられて微笑んだ。
『義勇は、もっと笑えばいいよ。そしたら…』
義「俺はいつも笑うようにしている」
『…どんな時?』
義「炭治郎と話すときや、Aと話すとき、不死川におはぎをやるとき…」
あれで、笑っているつもりだったのか。先が思いやられてしまった。
『義勇、そのいずれのときも笑えてないよ…』
義「…!?」
『ま、それも義勇らしいよ。それに、私は嫌いじゃない』
義「…そうか」
嬉しそうに言う義勇を見ると、昔を思い出す。以前は錆兎のことを思い出してしまって、つらく思うこともあったけど、今はただ単純に、義勇が笑ってくれるのが嬉しいと感じるようになった。
『さて、じゃあ帰ろうか』
義「あぁ。…あ、待て」
『?』
義「夜だから冷える。これを羽織れ」
『あ、ありがとう…これ、蔦子姉さんの形見?』
義「あぁ。俺の羽織を作ったのとは別にもう一着あったから」
『私が使っていいの?』
義「お前だからいいんだ」
『そっか』
羽織を羽織ると、ふわっと義勇の匂いがした。大好きな匂いだ。
『行こうか、義勇』
義「あぁ」
邸につくまでずっと、義勇は私の手を握って離さなかった。
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SILK(プロフ) - ツナモソチュロヌさん» 美しい物語だなんてそんな嬉しいお言葉ありがとうございます( ; _ ; ) (2020年3月8日 19時) (レス) id: 7fc337c787 (このIDを非表示/違反報告)
ツナモソチュロヌ(プロフ) - 美しい物語だと思いました(T_T)更新頑張ってください! (2020年3月8日 18時) (レス) id: 3cb3966213 (このIDを非表示/違反報告)
SILK(プロフ) - 水無月さん» ありがとうございますぅぅぅ( ; _ ; )これからも夢主ちゃんを見守ってあげてください( ; _ ; ) (2020年3月8日 11時) (レス) id: 7fc337c787 (このIDを非表示/違反報告)
SILK(プロフ) - 桜さん» ひぃぃ( ; _ ; )こんな作品で泣いていただけるとは嬉しい限りです( ; _ ; ) (2020年3月8日 11時) (レス) id: 7fc337c787 (このIDを非表示/違反報告)
SILK(プロフ) - うりょさん» ありがとうございます( ; _ ; ) (2020年3月8日 11時) (レス) id: 7fc337c787 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:伊太利亜 | 作成日時:2020年2月20日 23時