守護の力を、破壊の力を〜外伝〜【暁のヨナ】 (ページ40)

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第38話ページ40

……緋龍王の死から、廟を訪れるのは初めてだった。
少しばかり足がすくむ。

「悪ィな、なかなか…来れなくて」

扉に手をつき、ぽつりと呟く。

ずっと、怖かった。
この場所に来たらまた…涙が溢れてしまうのではないかと。
自身に宿る龍の血がまた…深い悲しみをもたらすのではないかと、怖かった。

しかし、緋龍王の廟を前にしても涙が溢れることはなかった。
それは別に緋龍王の死が悲しくないというわけではなく、リシスの中でも…また龍神たちの中でも、彼の死を受け入れられたという証拠だろう。

決して悲しくないわけでもない。
愛した王のことを忘れてしまったわけでもない。

ただ……前に進まなければと。
そう、心が未来へと向いただけなのだ。

「アビ」

廟に足を踏み入れると、青龍の名を呼んだ。
しかし返事はなく、あの綺麗な瞳がこちらに向けられることもない。

黄金の瞳は、白い布で覆われていた。
リシスは何を言うわけでもなく、アビの隣に腰を下ろす。
アビもまた、出て行けとも言わなかった。

「何だか…久しいな」

こうして顔を見るのも久しぶり。
それも偏に、リシスが部屋に篭って顔を見せずにいた故なのだが。

しばらくの沈黙が流れ、静寂がこの場を支配する。
その中で、リシスはゆっくりと口を開いた。

「私さ、ずっと考えてたんだ。
この力に…何の意味があるのかって。
人と違うこの力は、敬われ恐れられ、時には人のよくない感情を引き起こす」

それはアビが今まさに感じていることだろう。
現実離れしたこの異端の力は今や、争いの火種となりつつあるのだ。

「それでも、この力には感謝してるんだ。
私を…緋龍王、そしてお前らと繋いでくれたから」

そっと手が伸ばされ、頭に手が置かれる。
何年経っても変わらない温かな手、いつだってその手は…負った傷を癒してくれた。

「みんな、仲良く…だと。
緋龍王が私たちに遺した言葉だ」

ハッと、顔が上げられる。
そして…隠された目から溢れる涙が見えた。
その様子を見て、リシスは眉を下げて笑った。

「今はただ泣け。
お前らが私を黙って見守ってくれたように…私も、アビの気持ちの整理がつくまで待っててやるから」

簡単に受け入れられることでも、整理がつくことではないのもリシスはよく知っていた。
そして…そんな時に隣にいてくれる仲間の心強さもよく知っていた。

だからこそ……今度は、自分が隣にいたい。

頭に置かれた手が頭を撫で回す。
自身の目を隠す布越しでもよくわかる、彼女の瞳は光を宿し…もう、悩みはないようだった。