守護の力を、破壊の力を〜外伝〜【暁のヨナ】 (ページ34)

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第32話【10章:深い悲しみの中で】ページ34

この国を導いた王の死から程なくして……
城では彼の葬式が執り行われた。

誰もが王の死を嘆き、泣いた。
どうか安らかに眠れるよう、願わずにはいられなかった。
そして…それと同時に、この先どうすればいいのだろうという不安が頭をよぎった。

強く気高い、優しい王はもういない。
これから…高華国の民は、国をつくりあげた偉大な王の存在を忘れる事なく、その意思を引き継ぐべく生きていかなければならなかった。

「………。」

そっと、棺の上にリシスが花を添える。
そして…その目の前で拳を握った。

……私は、この光景が見たくなかったんだ。
誰もがアンタの死を嘆くことは分かっていた、涙する者が大勢いることも分かっていた。
あの時、もっとできる事があったんじゃないか。
本当に自分の選択は間違っていなかったのか、そう胸を張って言えるのか。

何度問うても意味がないと分かりながらも、その問いは頭の中をぐるぐると掻き乱すように回っていた。

苦しくて、悔しくて、悲しくて、胸が痛くて。
ドクン、と大きく心臓が脈打つ。
……身体が、身体中の血が沸騰するように熱い。

この悲しみは、自分の中の龍の血によるものなのか。
この痛みは、全て龍の血が引き起こしているものなのか。

……少なくとも、それら全てが龍の血によるものではないことはリシスも分かっていた。
龍神たちの悲しみには及ばずとも、リシスも緋龍王の死を心の底から嘆いていた。
それは、他の龍の血を持つ者たちも同じだろう。

だからこそ、より悲しみは大きくて。
より苦しみは大きくて、張り裂けるように胸が痛くて。

「リシス」

「……あぁ」

グエンに促され、リシスは緋龍王の棺に背を向ける。

この後、緋龍王の眠る棺は玉座の間の地下に作られた部屋へと運ばれることとなる。
そこでこれからもこの国を見守ってくれるようにと……

ふと、振り返れば緋龍王の棺の周りには相変わらず多くの人々が集い、手に持った花を手向けていた。
涙に濡れ、王の名を呼ぶ民の姿。
安らかに眠ってほしいと思う反面、どうして死んでしまったのかと嘆く気持ちもある。
さまざまな感情と葛藤するような人々の表情に、胸が締め付けられた。

「(私は結局、守れなかったんだ)」

涙が、頬を伝う。視界が歪んだ。
頬を濡らした涙は、地面に吸い込まれて消えていった。